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ランジュ氏の犯罪のSEULLECINEMAのレビュー・感想・評価

ランジュ氏の犯罪(1936年製作の映画)
5.0
物語の悲喜劇が素晴らしいのは言うまでもないのだけれど、撮影の面でもとにかく素晴らしかった。
まず、人物2人をワン・フレームに捉えたショットが抜群に上手い。カット・バックを極力使わずにカッティングで細かい引き寄せを行なうんだけれど、それがどのショット・サイズであってもキッチリ決まっているし、対象がスタンダード・サイズの引き締まった画面に隙なく収まっている。
それから、オーソン・ウェルズも驚くほどの長回しと移動撮影がすごい。基本的にカットを割らず、ひとつのショットの中で会話が進行していくのがリアリズム的で良い。そして何より、殺人の場面や結婚式の場面での長回しが凄まじかった。殺人の場面は事件が起こりつつあるという緊張感を湛えているし、結婚式の場面では実際に式を開いているとしか思えないほどの生々しい祝祭感が画面に充満している。クレーン撮影やトラヴェリングにも全く下品さがなく、むしろ優雅ですらある。洗濯屋のショットでのパンニングから同軸に引くところなんかは思わず「うまっ!」と声が出てしまった。
あと、ロケ撮影も素晴らしい。風に揺れる木々やパリの自然光の白さがあまりにも美しいし、車が疾走するショットも紛い物なしのスピード感があっていい。
そして何より、ラスト・ショットの映画史に残るほどの美しさ。あれが撮れたらもう言うことないでしょう。

「きっと奴が殺したのはどうしようもないゴロツキさ」
「でも法律が…」
「関係ないね!あんたは判事のつもりか?」
「母親殺しかも」
「くだらねえ ついでに父親も殺させたらどうだ」
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