シズヲ

デッドロックのシズヲのレビュー・感想・評価

デッドロック(1970年製作の映画)
3.5
ジャーマン・ウエスタン?ドイツ映画界の革命的時代であるニュー・ジャーマン・シネマ全盛期に登場した西部劇っぽい映画。小汚いディテールと濃い顔付きの役者陣などはマカロニっぽいが、どちらかと言えばカルト映画に片足を突っ込んでるようなヘンテコ感がある。国内版ポスターには“モーゼルVSトミーガン!”という謳い文句が付けられているが、別に大して対決はしない。というか銃撃戦そのものが殆ど描かれない。

イスラエルで撮影したらしい広大な荒野、すっかり廃れた炭鉱の施設(?)などのロケーションが醸し出す寂寞感がやたら強烈。出てくる登場人物は僅か数名程度、モブやエキストラの類もほぼ存在しないので最早ポストアポカリプスのような閉塞感が漂っている。だだっ広い空間に役者がぽつんと佇む絵面のシュールな場末感よ。そもそも時代はいつなのか、舞台は一体どこにあるのか、そういった前提となる設定や背景も曖昧なまま進んでいくので独特の空気感がある。トラックやトミーガンが出てくるので別に西部開拓時代ではないが、映像や作風などはマカロニ系めいてるというビザールっぷり。

採掘会社の代理人を名乗る冴えないおっさん、気の触れた元娼婦の巨乳中年女性、一切口を利かない若い娘など、僅かな登場人物達も妙に個性的。悪党達を出し抜こうとする割に性根が情けないのですか結果的に可愛げのあるおっさんと化しているマリオ・アドルフがやたら味わい深い。殺し屋“サンシャイン”に扮するアンソニー・ドーソンはロングコートの出で立ちと死神めいた髭面ぶりが如何にもマカロニ的な悪漢っぽくて好き。逆に主役のマルクヴァルト・ボームの“70年代ポップスターの親戚”みたいな雰囲気はあんまりピンと来ない。

冒頭や終盤のギラついた演出はCANのサウンドも相俟って半ば前衛性に近いけど、基本的には冗長で変な展開が続く。いまいち意図の掴めない登場人物の行動やよく分からない場面の繋ぎ方が散見される他、シュールな割にアバンギャルド性に徹してる訳でもないのでトータルだと結構まだるっこしい。しかし要所要所でのカットの切れ味や乾いたムード、退廃的なロケーションのおかげで、“話の流れは長閑なのに終始殺伐”という奇妙な世界観が構築されている。部分的に『エル・トポ』とか『デス・バレット』っぽい変な映画だ。
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