カトゥ

アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場のカトゥのレビュー・感想・評価

4.0
少し前までSFだった戦争のかたち、いわゆるネットワーク化された兵器による、非対称かつ予防的な対テロ戦争の映画。

舞台はアフリカのケニア。
イスラム過激派の要人の、身柄確保または殺害が目的のミッション。指揮はイギリス軍、無人航空機の操縦はアメリカ本土の基地から、画像解析はハワイのパール・ハーバー基地、もちろんケニアの軍隊や、現地協力者も参加している。
全てが監視下におかれ、記録される戦争においては、成功率とともに「法的に正しい交戦規定」が重視される。つまり、イギリスの閣僚や法務官のチェックが常に入るわけだ。
これは“現場”の軍人にとってはとてももどかしい。どんなに重要な殺害目標であっても、緊迫した状況であっても、ミサイルを撃って吹き飛ばすわけにはいかない。正義には手続きが求められる。
もちろん現場においても、それそれの責任者や担当者に正義がある。それぞれの思惑が、それぞれの権限や能力によって形になっていくあたり、良く出来たカードゲームのようだった。
 
この作戦中に、民間人が、パン売りの少女が巻き込まれる可能性が生じたところから、物語は大きなうねりを生じていく。
 
非対称戦争というと爆弾を抱えて突っ込むテロリスト側がよく知られる。彼らにとっては交戦規定なんてものは存在しない。衛星経由で全てが済む(そして時間が来れば次のシフトに交代する)なんて事も無い。あらゆる部分で非対称、それが現代なのだと、映像になるとより強く実感できる。
 
しかし誰もが正義を掲げ、命のやりとりに強い責任感を持ち、信念のもと“戦争”をする。この映画では、本当の悪人、怠惰な人物が登場しない。真面目な彼ら彼女らが、「正しい戦争」を進める姿は、格好良いのか滑稽なのか恐ろしいのか、観ていてよくわからなくなってしまった。なにしろ、「閣僚と役人のたらい回し」でさえ、単なる責任逃れではないのだから。

たったひとつ、主演の「ヘレン ミレン」さんは、間違い無く格好良い。白髪の軍服女性で、目の力が強い。彼女の存在感は、映画を一回り格上にしている、と思う。

「アリス・イン・ワンダーランド」の監督が残した最後の作品と聞く。僕は存分に楽しんだ。
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