ミーハー女子大生

何者のミーハー女子大生のレビュー・感想・評価

何者(2016年製作の映画)
4.3
【あらすじ】
『桐島、部活やめるってよ』の原作者である朝井リョウの直木賞受賞作を、演劇ユニット「ポツドール」を主宰する『愛の渦』などの三浦大輔が映画化。
就職活動対策のため集まった5人の大学生が、SNSや面接で発する言葉の奥に見え隠れする本音や自意識によって彼らの関係性が変わっていくさまを描く。
就職活動を通じて自分が何者かを模索する学生たちには佐藤健、有村架純、二階堂ふみ、菅田将暉、岡田将生といった面々がそろい、リアルな就活バトルを繰り広げる。

就職活動の情報交換のため集まった大学生の拓人(佐藤健)、光太郎(菅田将暉)、瑞月(有村架純)、理香(二階堂ふみ)、隆良(岡田将生)。海外ボランティアの経験や業界の人脈などさまざまな手段を用いて、就活に臨んでいた。
自分が何者かを模索する彼らはそれぞれの思いや悩みをSNSで発信するが、いつしか互いに嫌悪感や苛立ちを覚えるようになる。
そしてついに内定を決めた人物が出てくると、抑えられていた嫉妬や本音が噴きだし……。

【感想】
長いです。解釈です。
顔の出てこないもう一人の脚本家(烏丸ギンジ)は拓人の分身でしょうね。
演劇をずっと続けたい、みんなから評価されたい、そんなストレートな欲求のままに突き進む、一途で向こう見ずな性格。
一方で、冷静な分析家、また人の批評を恐れる拓人は、そんなのは現実的に無理だし、第一ツイッターでの自己アピールがみっともないからやめろと、LINEであるにもかかわらずかなりきつい言い方で抗議します。
きつさという面から言ってもこの二人の関係が特殊といえるほど緊密なものであることが伺えます。
しかしこうして、意識の奥底を思わせるような孤独な真っ暗な部屋の中で、ひっそりと二人は決別してしまいます。
原作を読んでいないので何とも言えませんが、拓人が裏アカウント「何者」を持つようになったのはこれ以降のことだと思います。
彼が不安定な存在になった契機だからです。

なぜ拓人は自己の半分を切り捨てなければならなかったのか。
これについては、才能の限界、下手な表現活動を人に見せることのみっともなさ、あるいは演劇によって瑞月を得られなかったことへの失望も含まれているかもしれません。
いずれにしても、「何者」のきつい批評的態度は彼自身に対しても向けられていたはずで、就活という圧倒的に他者の評価に晒される舞台により敏感に反応し、何としても格好悪い部分は見せまいと自分を守ろうとした結果なのだと思います。

アカウント「何者」の存在が理香に知られていたことがわかり、自分の弱さ、醜さを決定的に突きつけられた後、拓人は必死に瑞月の下へと駆け出します。
これは救いを求めての行動のように思います。
彼女だけは他の登場人物と違います。
拓人たちが舞台の上で役を演じている演出がありましたが、彼女はそれを観客席から見ている立場なのです。
拓人たちは就活のために多かれ少なかれ偽りの自己を文字通り「演じて」いるのに対して、彼女だけは一貫して率直な本音の言葉を話します。
天真爛漫なコータローでさえ演じるのが得意だったというのに過ぎず、位相は拓人たちと変わりません。
院の先輩も話に変化をもたらすサブキャラクターということで、あくまで舞台の上の存在です。
演劇には観客が必要です。
観客のいない演劇は空しいものです。
拓人は舞台の上の自分がどう見えているのか不安でたまらなくなり、その答えを瑞月に求めたのだと思います。
彼は瑞月だけにずっと見ていてほしいんです。
彼が瑞月を好きになったのも、脚本を書いていることを本心からすごいと言ってもらえたからです。
「俺が手を振っている…!」というあの演劇は、まさしく自分の内面を瑞月の前に包み隠さずさらけ出したものです。

瑞月は拓人自身が気づいていなかった彼の本当の魅力を照らし出してくれました。
客席からは役者でさえ気づいていない部分を見通すことができます。
彼女は「何者」のことも知っていましたが、それでも彼を肯定しました。
このことが拓人にとっての福音となって、彼はもう一人の自己を取り戻し、本当の彼自身を取り戻すのです。

そういうわけで、ラストの面接シーンでは拓人に2つの変化が見られたと思います。
1つは姿勢の面で、面接で評価されるためにずっとつくりものの言葉で話していた(ダウトの比喩など)彼が、初めて自分のお腹から湧き上がる正直な思いを、素直な言葉で語ることができるようになったこと。
もう1つは、自分自身の丸ごとの肯定です。
もう一人の脚本家を肯定することは、ずっとなおざりにしてきた本当の自分自身を肯定することに他ならないからです。
別にこうしたことで必ずしも就職が上手くいくわけではないけれど、響く相手には確かに響きます。
拓人が一生懸命脚本を書く姿が瑞月にとって魅力的だったように。

正直この作品を楽しめる層は大分限られてくると思います。
ただ、就活に苦しむ若者に向けて温かいエールを送ったという意味で、価値ある作品だと私は思います。

ストーリー 4
演出 5
音楽 4
印象 4
独創性 5
関心度 4
総合 4.3

5/2024