砂

レッドタートル ある島の物語の砂のレビュー・感想・評価

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観るたびに異なる印象を受ける映画がある。
そういう映画は長く付き合うこととなり、本作は私にとってそのような作品である。

スタジオジブリが海外と合作した、という触れ込みにも関わらず宣伝も小規模。その実は小規模の作家アニメーション映画である本作は公開当時もあまり話題にならず、客足もあまり芳しくなかった。が、私には非常につきささり、劇場に2回足を運んだ。


細かな説明は割愛する。
セリフがない、キャラクターに名前がない、など極めて匿名的な寓話性が高い物語であるが、場面構成や脚本は一本筋が提示されるので、何が起こっているかは理解しやすい。

しかし、それでいて解釈にかなりの余白を持たせているため、鑑賞者の感想も十人十色となるだろう。空白である主人公に自分の名前を代入しても良いし、不思議なおとぎ話、自然と人のありようを描いた物語、メタファーとしての物語、など様々に鑑賞することができる。
(共通するのは、とにかくカニがカワイイということだ)

また全編とおして音楽と動物の使い方が非常に良い。どこかノスタルジーを感じる。


外の世界から流され、隔絶した島で生きることとなった主人公がそこから脱出するために編んでいた船を海へ流すことで島そのものを受容=合一し、新たな人生を歩む。

さまざまな幸福や苦難がありつつ、最後の夜に小さくワルツを踊るのだが、所見時に私はそのシーンで涙がとまらなくなってしまった。今回もやはり涙が出た。
こういう、人生を抑制的な叙情で描くものには弱い。


本作の監督は「岸辺のふたり」という短編など構築的でありながら素朴な叙情性を併せ持つ作品を製作している。
そのために解釈も、こういうニュアンスだろうな…という読みはできるが何かに断定せず幅広い想像の余白を持たせている。
場面転換や細かな演出など緻密な構成ではあるのだが、さりげなくて窮屈な印象は受けない。


多分、歳を重ねて家庭を持つとまた違う見方もできそうだ(残念ながらその気配は私にはないのだが)

カンヌ「ある視点」部門の賞を貰ったのも納得できる、静かな名作である。
またいつか観ようと思う。
砂