MasaichiYaguchi

函館珈琲のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

函館珈琲(2016年製作の映画)
3.5
函館港イルミナシオン映画祭シナリオ大賞受賞作の映画化第一弾は、函館の街中にある古い西洋風アパートを舞台に、若者たちの出会いと葛藤を描いていく。
このアパート翡翠館をオーナーの萩原時子は、若者に仕事場兼住居として貸し出していて、現在は装飾ガラス職人を目指す堀池一子、テディベアアーティストの相澤幸太郎、そしてピンホールカメラ専門の写真家藤村佐和が住んでいる。
そこへ、本来入居予定の家具職人藪下の代わりに、古本屋をするという桧山英二がやって来る。
新たな住人となった桧山をはじめ住人たちは皆訳ありで、夫々の事情で函館に来て、翡翠館に暮らしている。
私も北海道旅行で訪れたことがあるが、映画に映し出される函館は観光地としてではなく、何気ない普段の佇まい。
それでもこの街らしさ、ゆったりとした時の流れを感じさせる函館の雰囲気が伝わって来る。
映画は、静かに時間が流れているこの街の翡翠館に住む人々が抱えた夫々の過去や、切なさや哀しみを少しづつ浮き彫りにしていく。
桧山が入居し、彼が淹れる美味しいコーヒーによるものなのか、住民たちの心の中に留まっていたものが徐々に目覚めていく。
そして失意にあった桧山自身も、彼らと交わっていく中で変わり、自分を見詰め直していく。
コーヒーの豊かな芳ばしさとほろ苦い味わいがあるこの青春群像劇は派手さは無いけれど、ロマンチックでノスタルジックな函館の魅力と共に心の琴線に触れます。