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函館珈琲のundoのレビュー・感想・評価

函館珈琲(2016年製作の映画)
3.7
夢のあとさき。

今年で22回目を数える、函館港イルミナシオン映画祭から生まれた作品。
映画オリジナルのシナリオを作ろうという同祭の試みである「シナリオ大賞」グランプリ受賞作。
漫画原作を否定するわけではないけれど、こういうオリジナル脚本の映画もたくさん観たいよね、と鑑賞。

監督は西尾孔志。
函館の街に佇む西洋風アパート「翡翠館」を舞台に繰り広げられる、夢を諦めない若者達の物語。

ひとことで言うと、嫌いになれない映画。
観る前に勝手に抱いていた印象は、あまり現実的ではない、ちょっとお洒落な雰囲気の、変わった職業の若者達の群像劇。思春期の頃に見たなら、大人になることを憧れてしまうような。

ちょっと違った。良い意味で。

本作の主要な登場人物達は、20代半ば〜30代前半くらいの人たち。過去のいろいろを清算できずに現在に持ち越しながらも、夢も諦めきれずにもがく人たち。そんな人たちが描く、ほろ苦くも優しい、遅れてきた青春物語だった。
函館の美しい街並みも色鮮やかで、雰囲気も良い。

他のレビュアーさんも指摘されている通り、本作では主人公の大きな心境の変化について、まるっと描写が省かれている部分がある。それゆえ、表面的なストーリーだけを追っていると、話のつながりが上手く捉えられない。
脚本家の経験不足かな?とも一瞬思ったけど、それでも、不思議と違和感なく受け入れられてしまった。
その理由を考えると、その場面までに主人公の心境が上手く描写されているからだろうと思い至った。
これが技巧的なものだとすると、なかなかの手腕。グランプリは伊達ではないといったところか。

鑑賞後に調べてみると、脚本担当の伊藤菜のはさんは、会社勤めをしながら脚本を勉強していたという、まさに夢を諦めなかった人だった。翡翠館の住人達は彼女そのものでもあるのだろう。
こういう人なら、これを書けるのかもしれないと思った。
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