ナイトメアシンジ

海よりもまだ深くのナイトメアシンジのネタバレレビュー・内容・結末

海よりもまだ深く(2016年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

演技において、”イントネーション”は最も大切なファクター(要素)です。

 

イントネーションとは?

 

ことばを話す時の声の上がり下がりのことです。

”抑揚”とも言います。

”アクセント”と”イントネーション”を混合する方がいますが、両者は微妙に違います。

 

「演劇クラブ・サークル けいこノート改訂版」(星雲書房)の中で、監修の野口三千三は”アクセント”と”イントネーション”について、こう位置づけています。

 

「アクセントは単語それぞれを一単位として発音上の”高低”をいうのに対して、イントネーション(抑揚)は文を単位としていう高低強弱である」

 

演技において、イントネーションがどうして大事なのか?

 

セリフを、いわゆる言葉を平坦に言うことを”棒読み”と言います。

 

「演技入門」(水品春樹著・ダヴィッド社発行)には、イントネーションについて、こう書かれています。

 

「言葉には、肯定・否定・疑問・完結・喜怒哀楽さまざまの内容があり、それぞれにふさわしい表現が要求されます。

高低、大小、緩急、強弱といった形が生まれるのもそのためです。

イントネーションとは、俗にメリハリのことで、また、”あがりさがり”の具合のことでもあります。

どんな名文美文でも、また複雑な気持ちを表すセリフでも、それが一本調子の平坦単調なものでしたら、生きた言葉として聴き手に伝わりません。イントネーションは、話し言葉が音声表現上の生命である感覚的な魅力を持つための非常に大切な働きをするものなのです」

 

この説明がすべてを表しています。

どうです、演技にとって、イントネーションがどれだけ大事なことなのか

わかりましたか?

ここで、映画「海よりも深く」の中の樹木希林と小林聡美のワン・シーンを紹介したいと思います。

 

映画「海よりも深く」とは?

 

「海よりもまだ深く」(うみよりもまだふかく)は、2016年5月21日公開された日本映画。監督は是枝裕和。主演は阿部寛。

団地を舞台に、売れない小説家の主人公と、団地に一人住まいのその母親、別れた元妻とその息子。こんなはずじゃなかったと今を生きる家族を映したストーリー。

第69回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門出品作品]。第26回フィルムズ・フロム・ザ・サウス映画祭(ノルウェー)でシルバー・ミラー賞(最高賞)。

キャッチコピーは「夢見た未来とちがう今を生きる、元家族の物語」。

 

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

 

 

団地のベランダの面した部屋。

阿部寛演じる篠田良多の姉、中島千奈津を小林聡美。

良多の母で千奈津の母、淑子を樹木希林が演じています。

 

中島千奈津が食卓の上を覗き込んでいる。

篠田淑子が布団を取り込んでいる。

 

千奈津「23、(台風の数)こう多いと、さすがにうんざりよねー」

淑子と自分に言っているセリフ。
後半の抑揚にそれが現れている。

淑子「思い出した!ジャネット・リーよ!」

リー を強めに言っている。
思い出したことの嬉しさとフルネームを言えたことの感情表現。

千奈津「ああ、金髪のね」

食卓の上に広げられた書類か何かを見ながら母親の話を聞いている。
両方に意識。
やや平坦なイントネーション。

淑子「尻餅ついたのに、満点だったよ、わけ、わかんないわよね、ヒギアって」

ここは布団を運ぶことにも気を取られているので、抑揚はやや平坦。

千奈津「フ・ィ・ギ・ュ・ア」

母親がよく解るようにゆっくり言っている。


淑子「(言い聞かせるように)フィギュア…フィギュア…」

千奈津「この柳田さんて、会社の人だっけ?」

て を少し下げて言っている。
自分の記憶も探りながら、母親に問いかけている。

淑子「成城の交番の後ろの家、お父さん、何度もお金借りて。その度に、何度も私、板橋のお兄さんに頭下げて…」

何度も私 を強調するため、少し下げて言っている。

千奈津「良かったじゃない?そーゆー、心配がなくなって。でも、アレか?急に(お父さん)いなくなって、ちょっと、アレなんじゃない?」

でも、アレか? は少し語尾を上げて言っている。
少し、冗談半分ということを母親に伝えるため。

淑子「いいえ、せいせいした」

千奈津「ボケるわよー、ぼーっとしてたら。友達、作りなよー」

フレーズによって‼上げたり、下げたりしている。

(倒置法の文章のために解りやすくす    るため)


淑子「そんなの作ったら、葬式が増えるだけです」

だけです をやや強めに言っている。

(キッパリと断っている)

この樹木希林と小林聡美のシーンは本当に素晴らしい。
是枝監督は、リアルさを追及する監督。
我々は、”他人の普段の日常“を見ているように錯覚する。
表現にウソがない。
(本当は虚構なんだけど)

“セリフ”でなく、“会話”になっている。

日本で最も実力のある二人の女優の絡みをもっともっと見たかった気がします。
(小林聡美が樹木希林をリスペクトしているのは、有名)
樹木希林の御冥福をお祈りします。

このように、イントネーションは家族関係や、その時々の感情を如実に現すことができます。

棒読みでは相手にも何も伝わらない。
それは、日常会話でも同じですよね?