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好きにならずにいられないのoimoのレビュー・感想・評価

好きにならずにいられない(2015年製作の映画)
4.0
日本版のポスタービジュアルはなんかちょっと酷いけど、作品自体は胸が苦しくなる程の切なさと愛おしさを湛えた傑作だった。
またふざけた邦題を…と思いながら観てたけど、鑑賞を終えた今、まさに好きにならずにいられない人フーシの魅力に完全にノックアウトされてる。
とにかく健気で悪意や捻れが全く無くて、エジプト旅行のパンフレットを持ってシェヴンの家へやって来た辺りから涙腺が決壊。ミニチュアの戦車にペイントする澄んだ瞳は何か全てを悟った優しい象のよう。

それにしてもシェヴンが全く魅力的な女性として描かれてないのが少し残念だったな。鬱病は自己嫌悪と怠け癖が合わさっただけの流行病だ、的な台詞やフーシのお母さんのゴミ女発言にもギョッとさせられたけど、メンタルヘルスを扱うのならもう少しそういう部分に配慮が欲しかった気もする。ただこの作品はあくまでフーシの話。フーシから見た世界の話だから、これがリアルなんだろうとも思う。シェヴンなりに頑張ってた部分も実はかなりあった筈で、だけどその頑張りはフーシ側には全く伝わらないし説明したところで多分理解もされないから。自分の意思でなんとか出来ることじゃないのになんとかしようと抗うから更にドツボにハマって抜け出せなくなる。あの辛さは経験しないと分からないだろう。
だけどそれを知ってか知らずか、ただ寄り添おうとしてくれるフーシの素朴な優しさには心が和んだ。…と同時に、扉を破壊されて家に居座られるのは恐怖でしかない部分もあって…なんか複雑な気持ちに…。トイレ行けないじゃん…とか心配になってしまった。

結末の時点では恋は報われなていなかったけど、その後がどうであれ自分の殻を壊して新しい世界の扉を開く結末には、なんとなく『鑑定士と顔のない依頼人』が思い出されてかなりグッと来た。幸せを願わずに居られない。
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