ジュライ

ダンケルクのジュライのレビュー・感想・評価

ダンケルク(2017年製作の映画)
3.8
実話だし「凝った構成で魅せる」という類のストーリーではないのでもっと直球に淡々と描いてもよさそうなものなのに、意地でもそれをしないのがノーラン。
もちろん『テネット』とかに比べれば全然やさしめのストレートボールですけど。

モブも含め役者の大半が黒髪の人ばかり使われているうえ、明確にされる人名も極端に少ないので、個々の見分けがつきにくく、「国籍ごとの群れ」でしかない。
そして爆撃や魚雷で容易に吹っ飛ばされる彼らは戦地においては一個人として死ぬことすらできず、「死者××名」として数字で括られてしまうような存在なのだ、ということが視覚的にも分かりやすく表現されています。
さらに彼らのダークトーンの髪もあいまって画面の下半分は常に薄暗いのに、空が映っている上半分だけが目にもあやで、その画面構成の妙にも感心しました。


BGMが常に緊迫感があって怖いし、『八甲田山 死の彷徨』にも似た閉塞感が全編を覆っているにもかかわらず、終盤で突然あれよあれよと事が進んでいきラストは駆け足気味な気はしましたが、そもそもこの結果ありきの映画だから、まあそこはいいのか。

私にとってのMVPは、「あの子大丈夫か」と訊かれてしばしの沈黙ののちに「ああ」と答えた青年です。
すさまじいまでの自制心と、全体の利益と安定を斟酌し大局的に考えられる理性。
ああいう人にこそ国を動かしてほしいものです。
ジュライ

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