笹井ヨシキ

ダンケルクの笹井ヨシキのネタバレレビュー・内容・結末

ダンケルク(2017年製作の映画)
2.9

このレビューはネタバレを含みます

クリストファー・ノーラン監督最新作ということで鑑賞して参りました。(※IMAXで鑑賞してません!)

ノーランはその型破りな時間の捉え方と、人間心理のメカニズムを世界観そのものの枠組みとし、内面の闇を画面と同期させる独自のフィルム・ノワールのスタイルを確立した監督で、映画ファンなら(好き嫌いは別として)目が離せない奇才ですよね。

今作も従来の戦争映画に囚われない大胆な時間構成と、「今そこにいるような」ライブ性を重視した迫力と緊張感のある演出、そしてホイテ・ヴァン・ホイテマの芸術的な撮影は、ノーランらしくもあり見応えがありました。

ただ一方で、自分が映画に求めている人間ドラマがなく、全体的に単調で物足りない印象を持ったのも事実で、「上手に楽しめなかったなー」というのが正直な感想です。

自分がノーランが描く人間ドラマで面白いと思うところは「近しい人の死(または喪失)に心を蝕む主人公」を毎回描き、その心象風景が画面に現れる中で様々な選択と、選択によって得られる結果よりも大事な事を見せてくれるところだと思うんですよ。

でも今作は主人公「らしき」人物は各パート一人ずつ存在しますが、明確な物語はあまり存在せずあくまで状況を映すためのフィルター程度の役割しかないため、そういったドラマは(ゼロではありませんが)用意されておりません。

これはIMAXで鑑賞し優れたライブ性を100%の状態で感じて評価を下せる方なら良いのかもしれませんが、自分のようにIMAXではない視聴形態で観てしまった人間からすると物足りないんですよね。

「ピュアな戦争体験を再現するために人間ドラマは省略する英断をした」ということかもしれませんが、視聴形態によってバラつきが出ない人間ドラマは最低限必要だったのではないかと個人的には思います。

あえて人間的魅力を感じるキャラクターを挙げるならマーク・ライランス演じるドーソン船長はとても良かったですね。
戦争を作り上げてしまった張本人たちが戦場には赴かないパラドクスに真摯に向き合う姿を顔付きだけで表現していて、素晴らしかったです。

また1週間、1日、1時間をほぼ均等な時間で描くという挑戦的な脚本構成というのも、試み自体は面白いと思うし、陸海空でそれぞれの時間の捉え方が違い、時間をやり過ごさなければならない恐怖と時間に追われる切迫感を対比的に描いたというのも理がある作りだと思うのですが、
この構成で果たして面白くなっているかというと決してそうではなくて、時間が不連続なため夜のシーンがいきなり昼のシーンになったりして頭でがわかっていても混乱してしまうし、山場のシーンをかいつまんで描写するためメリハリがなく、逆に単調に見えてしまうんですよ。

船に魚雷が命中して溺れるパニックシーンと、キリアン・マーフィー演じる粗野な英国兵とのいざこざ、そして上空でのドッグファイトとそれぞれの見せ場が並列的に語られるから、こちらの集中力が持たないというか。まあ自分が集中できていなかっただけかもしれませんが、ノーランだったらもう一工夫あって然るべきなのかなとも思いました。

良かったところもあって終盤は映画的にも盛り上がり、演出的にも巧さがあって素直に楽しみました。

3つのパートが一つに集約されていく展開になるとようやくカタルシスが生まれ、徴用された民間船舶が海一面に現れるシーンや、あれだけ無能呼ばわりされていた空軍がヒーローとして歓声を受けるシーン、そして生き残った者こそ英雄であり殺すためではなく生きるために行われたダイナモ作戦を讃えるラストは、素直な感動と「勝利」という言葉への少しの違和感を残しています。

多くの人命を救ったダイナモ作戦の成功は確かに奇跡ですが、多くの軍需品は失われ、カレーに残ったイギリス兵、ダンケルクに残ったフランス兵は犠牲になったのは紛れもない事実で大きな敗北でもあるんですよね。
駅で英雄的扱いをされる中茫然とするトミーの表情は、歴史を一方的な結論で締めくくらず、誠実な姿勢で配慮を見せるノーランの巧さを感じました。

何か褒めてるのか貶してるのかよくわからない文になってきてしまったのですが、自分はまだまだ未熟でありこの映画を楽しめる域には達していないというのが今言える正直な感想です。
映画は人間ドラマを見せるものなのか、それとも違う世界を見せるためのものなのか、深く考えさせられた作品でした。
笹井ヨシキ

笹井ヨシキ