セサミオイル

映画 聲の形のセサミオイルのレビュー・感想・評価

映画 聲の形(2016年製作の映画)
4.6
子供というのは精神は既に大人だが大人と比べて圧倒的に経験が足りない。言葉を知らない。生きてる世界がせまく、逃げ場がない。故にもどかしく、時に自分を責めて時に手加減なくいたずらに他者を傷つけ、もがき苦しむ。そうやって大人になってゆくものだ。「不器用な大人」という人間像に似ている。
この映画は成長過程でともなう痛みのフルコース。
成長期の痛みはヒザだけではないという事をまざまざと見せつけてくる。
ただ痛みだけではない。コミュニティーを形成し、他者の中に自分を見つけ、自己の中に他者を見つけて痛みを共有した者同士の絆は深まり、思いやる心が芽生え恋をして強く生きるすべを体得してゆく。
「変わる」という言葉が頻繁に出てくるシーンがあるが子供たちはこのままじゃいけないと、目指すべき自己変容を模索し続ける。そして大人であるはずのお母さんも成長する。
彼らは痛みを経験し、お互い助け合い励まし合う事で自己変容を遂げてゆく。多様性の中で自己を確立してゆく。許す心を覚える。そして西宮硝子は嫌いだった自分をだんだんと受け入れ始める。

映画という事でアニメ表現もキレキレ。
心の機微を過不足なく見せてくれる演出もよい。
音楽もとてもよい。
声優もとてもよい。

激しく痛む虫歯治療から逃げていたのでは快適な生活は訪れてくれないのと同じで、成長期の痛みから逃げて大人になった人はつまらない一生を送るんじゃないかとぼんやりと思った。
そして生きるとは何かというところまで考えさせられる。
どうしてこんなつらい思いまでしても生きてゆくのかという事を。
ヒントはこの映画の中にあるような気もするが、答えは「分からない」で良いと思う。