西山コタツ

映画 聲の形の西山コタツのレビュー・感想・評価

映画 聲の形(2016年製作の映画)
5.0
「覆水を盆に返す」
ぼくが物語の根本に求めているのはこれだった。もう取り戻せない失敗や幾度と繰り返した挫折を、捨て身な努力と寛容性によって互いを許し合っていく、こんな世界を望んでいた、と心から共感できる映画だった。
「好意」と「悪意」と「敵意」に判別のつかない幼少期はとくに、誤ったコミュニケーションによって多くの被害者や加害者を生む。誤解を恐れずにいえば、いじめは環境が作り出すもので、明確に善悪が分かれるものではない。どちらの立場にせよ、社会からひとたび弾かれてしまえば、そこから這い上がることが許されないのが現状で、そんな救いのない世界に「それでいいのか」と物申す姿勢が本作にはある。
人間の性質は変えられないかもしれないが、自らの愚かさを改善することはできるし、それを受け入れて許すこともできる。対話は万能でないかもしれないが、こんな物語があってもよいではないか。
そして観客それぞれが「あなたが生きることで救われる数多くのことがある」ことを実感できたのなら、それほど幸せなことはない。
西山コタツ

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