ふき

ドラキュラ・イン・ブラッド 血塗られた運命のふきのレビュー・感想・評価

3.5
吸血鬼の代名詞でもある「ドラキュラ」のモデルとなった、実在の人物「ヴラド三世」の生涯を描いた作品。
実在の人物なので、ホラー映画だが吸血鬼ものではない。そこを把握していないと、「ドラキュラってタイトルなのに歴史ものじゃねーか!」となるので、その点には注意を促したい。

内容は、ヨーロッパ史に特別詳しくない人でも混乱しないように、史実から大幅に簡略化されている。
オスマン帝国のスルタンやハンガリー王は代替わりをしないし、ドラキュラを裏切る貴族やドラキュラを支持する民衆はそれぞれ一人のキャラクターに集約している。歴史物にありがちな「唐突に出てきてそれっきりな人物」もいないので、登場人物で混乱することは少ないだろう(親友のシュテファン大公もいないとは思わなかったが)。
場所についても、抽象化した「ルーマニア」「ドラキュラ城」「ハンガリー」「オスマン帝国」程度しか出ない。特に史実では何度か移動したている住城を、ほぼ架空の「ドラキュラ城」に一本化している。
ワラキアとトランシルヴァニアを一括りにして、当時は存在しない「ルーマニア」と呼ばせたのはどうかと思うが、許容範囲内か。

上記の事情から作中で描かれるエピソードは、地名も登場人物もほぼすべて創作である。ただしそれらエピソードはほぼすべて史実ベースであるため、一歩引いた視点から見るとキチンとヴラド三世の物語になっている。参考に、史実をベースにした部分を抜粋する。

・公衆の場には金のカップが置かれていたが、盗むと死刑なので盗まれなかった。
・トルコの使節団が脱帽しなかったので、帽子を頭に釘で打ち付けた。
・ドラキュラ死亡との誤報を受け取って、ある人物が自殺した。
・ハンガリー王は偽造の手紙を根拠に、ドラキュラを投獄した。
・ドラキュラは“トルコ人”に殺された。

しかし物語全体のトーンとして、「ドラキュラの行動は復讐や同情心など感情的」「吸血鬼の特徴の元ネタをすべてドラキュラに押し付ける」といった印象操作があるので、本気でヴラド三世が好きな人は怒るかも知れない(私も一回目の中盤までは怒っていた)。

そんなわけで、「ドラキュラ初心者が実在のモデルをざっくり把握する」には役立つ作品と言えるだろう(この題材で日本で見られる作品が、私の知る限りこれしかない、と言うべきか)。
惜しむべくは、映画としてのルックスが非常に安っぽいことと、日本版のDVDがあまり出回っていないことか。B級作品であることを理解しつつ、三〇〇〇円程度の出費を許容できるなら、是非是非見て欲しい。
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