アニマル泉

ウィリーが凱旋するときのアニマル泉のレビュー・感想・評価

ウィリーが凱旋するとき(1950年製作の映画)
4.2
フォードのコメディの腕が冴える戦争映画。20世紀FOX 白黒スタンダード。
太平洋戦争が始まり一番に志願して田舎町の英雄になったウィリー(ダン・デイリー)がなかなか戦地に赴けず、町の人々から軽蔑される。しかし遂に戦地に赴いて大殊勲を挙げる。フォードは「ストーリーが気に入った」という。プレストン・スタージェス風の物語だ。
この時期のフォードは作風が確立している。面白い場面だけを軽々と繋いでいく。何でもござれ、巨匠の至芸だ。
冒頭からバンド演奏。本作は歌とダンスの音楽映画でもある。恋人マージ(コリーン・タウンゼント)とウィリーが祝賀会で歌う場面、出兵式の父親(ウィリアム・デマレスト)が太鼓を叩くマーチの場面など華やかだ。
前半はウィリーとマージのメロドラマでもある。フォードはラブシーンは二人だけにするのが上手い。マージの家の中から二人で表に出て玄関ポーチの二人にする、葉陰が美しく二人に浮かぶ照明も繊細で美しい。ウィリーとマージが隣りでお互いの玄関ポーチが見える設定がいい。ウィリーがなかなか出征できないのを嘆く父親とウィリーの玄関ポーチでの座り芝居の場面も素晴らしい。この場面も葉陰の陰影が美しい。ウィリーが出征する駅の場面、フォードの十八番の駅の別れだ。ウィリーは両親に挨拶をして早くマージと二人で抱擁したい、しかしマージの弟が邪魔だ、やっと二人で抱擁して延々とキス、走り出した列車にウィリーが飛び乗る、フォードの至芸だ。祝賀会の帰りの雨の夜道のウィリーとマージの歩き場面もいい。二人が人々の前で歌う華やかな場面の直後、夜道を歩く二人の移動ショットになる。雨で夜道を濡らすのはさすがフォード!抜かりない。このあとマージの家前の玄関ポーチでラブシーン。もう会えないかもしれないと嘆く切ない二人(事態は全く逆になるのだが)、対角線上で視線が見つめ合うハリウッド黄金のパラツーショットだ。
本作にはいろいろな乗り物が登場する。なかでもウィリーに鬼門なのが飛行機だ。軍事練習では飛行機を着地できずに大混乱になる。初出征では飛行機で寝過ごしてしまい、敵地に落下傘で墜落ギリギリに脱出、命からがらレジスタンスに捕まってしまう。ウィリーは飛行機からまともに降りることが出来ないのだ。本作のラストは英雄になったウィリーが飛行機に乗って扉がバタンと閉まる。今度は大丈夫かな?と心配にさせるエンディングだ。
フォードは窓や扉に人を佇ませるのが上手い。本作で印象的なのはウィリーが遂に出征してマージと両親に見送られる場面だ。玄関を横からの引きのワンショットで見せる。ウィリーは初出征とは対照的にマージとあっさりとした抱擁で玄関を飛び出す、それをマージと両親が心配そうに戸口に佇んで見送る。このショットが素晴らしい。もう一つはレジスタンスが窓からドイツのロケット発射を監視して撮影する場面だ。この場面も窓から覗くレジスタンスたちとウィリーを横からのショットでのみ描く。窓外からの人々の正面ショットや見た目の風景もない。ロケットの発射はカメラのファインダーショットになる。
レジスタンスの女リーダーのイボンヌ(コリンヌ・カルヴェ)がいい女だ。物語中盤から出てくるいい女という期待にフォードはちゃんと応えてくれる。ウィリーを脱出させたイボンヌが一本道を自転車で去るロングショットは「荒野の決闘」のラストショットのように素晴らしい。
本作のコメディーを生み出すのは「くり返し」だ。同じシチュエーションがしつこく反復される。出征出来ずに教官として昇格して慈善勲章が貯まっていく反復、敵地から逃亡してくるが泥酔から覚めずに同じ尋問が繰り返される、ウィリーにまとわりつく子犬などなどだ。
特筆したいのは本作のフォードのテンポの素晴らしさだ。ドイツのロケット発射に直結でドイツ軍が村に侵攻してくる畳みかけ。あるいはウィリーが精神病科に入れられてしまう場面は、バタンと閉まる扉、精神科の看板あり、ワーッと奥からウィリーが逃げてくる病室の混乱のロングショット、走る列車、という見事なテンポだ。無駄がない強いショットのみを重ねていくフォードの至芸である。
音楽はアルフレッド・ニューマン。
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