RiN

シング・ストリート 未来へのうたのRiNのネタバレレビュー・内容・結末

3.4

このレビューはネタバレを含みます

『終わり良ければすべて良しの反対は』

拝啓ジョン・カーニー監督
あなた様の前作、「はじまりのうた」でわたしはあなたに恋をしてしまいました。失恋したてのシンガーソングライターを主人公にした、まさに現代のマイ・フェア・レディとも言うべき、そのプロデューサーとの師弟愛と恋愛と親子愛のちょうど中庸のような、涙が出るほど優しい愛の関係に、心を掴まれてしまったのです。
そんなあなたの最新作、喜び勇んで拝見いたしました。
世界的な不況、家族の不和、理不尽な校則に鬱屈した少年が、その思いの発露を音楽にぶつける青春映画、まさに王道。音楽も、80年代らしいチョイスの音楽、スミスやデュランデュランやキュアーなど、を上手にモノマネ、ではなくリスペクトし、オリジナル楽曲として少年たちに演奏させており、映画は終始ワクワクする作りであったと思います。
ファッションにも強くこだわってらっしゃいましたね。わかります。あのくらいの年頃の少年たちの影響されやすさ。髪を染めてみたりハットをかぶってみたり下手な化粧をしてみたり、実にボーイズな装いに思わず微笑んでしまいました。
素敵な映画ですね。現在、日本でも大変な人気を博しております。

しかし、しかしです。
あのラストは、一体全体どういうわけなのでしょう。
若い二人が勢いに任せて逃避行、ええ、言葉だけならよく聞く話です。ですけれども、いくらなんでも逃避行の方法が頭が悪すぎやしませんか。漁師の孫なら当然、航海の際もっとも気にしなくてはならないのが天候だというのは百も承知のはずです。もっと言うなら、海図なども調べて入念に航海の準備をするはずです。それが、あのような無鉄砲な逃避行。
ああ、もしかしたら、あの姿に時代性を見せたかったのかもしれませんね。
確かに90年手前、ロンドンからは世界的バンドが幾つも発生しましたし、彼らのほとんどが無鉄砲さに任せてロンドンにやってきた英国中の田舎者です。
ですが、まさかあんなバカな方法で上京したわけでもないでしょう。密航のほうがまだリアリティがあるくらいです。

とても悔しいです。
あのラストまでは、監督自身の自叙伝とも言うべき今作、一定のリアリティを保ちながらもワクワクさせる、まさに傑作青春映画であったのに。
なぜラストだけがあんなにもチープなんでしょう。

ですが、主演その他をオーディションで選ぶなど、なおも精力的な姿勢に魅力を感じざるを得ません。
次回作にも、大いに期待いたします。

敬具
RiN

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