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グリーンルームのDDのネタバレレビュー・内容・結末

グリーンルーム(2015年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

『ロックとホラーの融合が突き刺さる一触即死のハイプレッシャー映画』

■草食系パンクスvsネオナチ軍団
粘りつくような息苦しさに満ちた復讐劇『ブルー・リベンジ』でカンヌ国際批評家連盟賞を獲得したジェレミー・ソルニエ監督が、またもや刺激的な作品をねじ込んできた。監督2作目の『グリーンルーム』は、ツイてないパンクバンド“THE AIN’T RIGHTS”が体験した恐怖の一夜を描いたバイオレンススリラーだ。ギグ帰りのガソリン代をひと稼ぎしようとバンドが訪れたライブハウスは、ネオナチの巣窟。スキンヘッドにミリジャケの男たちがうろつき、不穏な空気が漂う会場で演奏を終えた彼らはそれなりの報酬を手にするが、ある出来事をきっかけに、恐怖と暴力が支配する血みどろの世界へと引きずり込まれていく。

■一気に浮かび上がる対立構造が生む緊張
パット(アントン・イェルチン)率いるTHE AIN’T RIGHTSは自称「正真正銘のハードコアバンド」で、車のバンパーにFugaziのステッカーを貼っていたりもするが、いかにもといういでたちはしていない。どこか醒めたところのある普通の若者たちである。対するネオナチ軍団も、見た目こそその手合いだが、派手にハーケンクロイツを掲げるでもなし、何かに心酔している危うい熱狂さも見せていない。両陣営とも、はなから「パンクス」や「ネオナチ」などと分かりやすくカテゴライズされてはいないのだ。音楽を媒介にユルくつながっている集団という体裁、それがある瞬間を境に、明らかに異質なものとして対立を露わにしていく構図が面白い。

パットの悪戯的な思いつきで、バンドがステージで体育会系ハードコアパンクスを「ナチや軍隊みたいだ」と揶揄するDead Kennedysの“Nazi punks-Fuck Off”を披露した途端、客席からは瓶が飛び、怒声が上がる。一瞬ひるむパンクスたち。双方の敵対心の芽生えが不気味に描かれている。

この緊迫の瞬間があるがゆえに、ここからネオナチ軍団がネオナチ軍団としての顔を見せていくことには不自然がない。パトリック・スチュワートをヘッドとしたヒエラルキーが表出、よく訓練された兵士のようにパンクスに襲いかかっていく。いわゆるナチス的な要素を感じないから、このあたりの描写は逆に恐ろしい。「カッコイイ音楽とちょっと怪しげでクールな雰囲気に惹かれて集まったら、実はそういう集団でした」、そして気がつけばその歯車に組み込まれている、という事態がいともたやすく起こる恐怖。

■80年代ホラーの味わい、笑いを誘う瞬間の緩急
本作の不気味さを飛躍させているのが、80年代映画的な味付けだ。『マッドマックス2』を思わせる荒涼とした色調、ウェス・クレイヴン作品(リンク先作品からの引用シーンあり)に見られる新しい恐怖―残虐極まりない加害者を、そのはるか上をいく残酷さで被害者が復讐を遂げるような―が効果的に取り入れられ、恐怖の質を上げている。ブラックユーモア的に不意打ちで挟まれる台詞やシーンで一瞬、クスッとさせられ、再び恐怖のどん底へという構成もよい。まさに笑いと恐怖は紙一重を実感させられる体験だ。

■さよなら、アントン・イェルチン
先ごろ不慮の事故で亡くなったアントン・イェルチン、最後から2本目の作品。スターがのし上がっては消えていくハリウッドの中において、「自分よりふさわしい人がいるなら、自分が演じるよりその人が演じるのを観てみたい」というインタビューが印象に残っていた。裏を返せば、自分にしかできない役を選んでいたのではないだろうか。『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』、『君が生きた証』や本作では、パンクバンドでギターを弾いていたという経歴が十二分に生かされているように思う。『スター・トレック』シリーズのチェコフは舌っ足らずのロシア訛り英語がキュートでハマリ役だった。この先、幾つ「彼にしか演れない役」を観られただろうかと考えると、悲しみが深まる。
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