TAK44マグナム

グリーンルームのTAK44マグナムのレビュー・感想・評価

グリーンルーム(2015年製作の映画)
3.4
だから、無人島に連れてくバンドは結局何なのよ?


惜しくも若くして亡くなったアントン・イェルチンの遺作となった、パンクバンドとネオナチ集団が期せずして殺しあうことになってしまうスリラー映画です。
タイトルとおり、全編を通してカラーの基調がグリーンなのが特徴的。
「グリーンルーム」とは控え室って意味があるんですね。知りませんでした。


ガソリンを盗まないと先へ進めないほど困窮しているパンクバンドが得たライブステージ。
森の中のライブ小屋にはスキンヘッドの連中が何故か多く、不穏な空気が流れていた。
ステージを終えた彼らが帰ろうとすると、控え室には別のバンドが。そして、そこで見てはならぬ光景を目撃してしまう。
殺人事件の目撃者となってしまった彼らは、事件の隠蔽をはかる小屋のオーナーに命を狙われる羽目になる。
オーナーはネオナチだったのだ。
控え室のドア一枚を隔てた攻防。
はたしてパンクバンドは生きてそこから出られるのであろうか?


ネオナチであるオーナーを演じるのはプロフェッサーXことパトリック・スチュワート。
彼をして「マジでビビったよ」と言わしめた脚本ですが、怖さはそこまででもありません。
目に映るものはじゅうぶん怖いのですが、派手さを抑えた演出がスプラッターホラーのような「死に様を楽しむ怖いものみたさ」をスポイルしているかと思います。
でも、血は必要以上にでます。
銃で撃たれれば血がピューピュー吹き出ます。
そういった傷や銃痕はかなりリアルに作り込みされており、どこか現実感を大切にしている作風と相まって「こういう事件ってけっこう起きてるんじゃないか」と、明日の自分の身にも起き得るかもしれないという不安を感じさせることに成功しているのではないでしょうか。
アントン・イェルチンの情けなさ全開の演技も相乗効果を生んでいますよ。

ネオナチ側の目的が、あくまでも隠蔽なので、あまり騒ぎ立てたくないんですね。
とにかく控え室からバンドの連中を燻り出して外で始末したい。
結局は銃も使いますが、最初は極力使わない方向だったというのもあり、前半は展開が遅く、見栄えも地味になってしまっています。
これは意図的なのかどうか分かりませんが、観る人によっては事態が動く前に飽きてしまうかもしれません。
つまり、強力な牽引力に乏しいのが難点かと。
逆襲が始まる後半戦もトーンがさほど変わらないので、これは好みの分かれる映画だと思いました。
もしも、ネオナチのメンバーがドウェイン・ジョンソンやヴィン・ヴィーゼル、そしてステイサムだったりしたら、脚本や演出なんぞクソくらえとド派手にドアをぶっ飛ばしてしまうところなんですが、それでは別の映画になってしまいますので・・・。


そもそも、バンド側からすれば「殺される、どうしよう!」というホラーな状況でも、ネオナチ側からすればチェーンソーで八つ裂きにする必要もなければゾンビのように食い殺すわけでもないわけで、別にホラーを装わなくて構わないんですよね。
一応、訓練した犬を凶器にして、結果的に死体がいくつも並ぶのですが、両者のスタンスに違いがあるので、グログロしいホラーを期待すると肩透かしを食らう可能性が大きいです。

なので終盤の、「開き直った人間ほど怖いものはない」というのがよく分かる、ジメッとした反撃をヌルりと楽しむのが本作の正しい鑑賞なのではないかなぁ、と。
そして、劇中のセリフ通りに、「どうでもいい」という虚無感を余韻として浸るべきであって。

突き詰めると、人生には生きるか死ぬかの二択しかないのかもしれませんね。
そんな選択の時をコンパクトに描いた、意地の悪い映画だと言えるでしょう。

なんだかんだ言って平気で人も殺せるイモージェン・プーツが出色。
行動的な分、パトリック・スチュワートよりも恐ろしいかも。
イモージェン・プーツのキャラがパワーバランスを巧く保つための肝だった様な気がしますね。
なんといってもキュートだし。


初回盤ブルーレイ特典のアウタースリーブケースのデザインが、緑色の犬がひしめき合っているもので、一目で気に入りました。
久しぶりにジャケ買いも含めて購入しましたよ。

まあ、もっとゴアゴアで、とんでもない方向に逝ってしまう展開の「グリーンルーム/おバカなホラー版」も観てみたいですけれどね。
「要塞警察」や「真夜中の処刑ゲーム」から知的さを取り払った感じがイケる方にならオススメしておきましょう。


セル・ブルーレイにて