MasaichiYaguchi

夢二 愛のとばしりのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

夢二 愛のとばしり(2015年製作の映画)
3.4
画家・竹久夢二その人に迫った本作は、彼が描いた美人画をはじめとして、静物や風景画、そして創作した詩の数々をちりばめ、芸術や愛を追い求めた彼の姿を大正ロマンの中で浮き彫りにしていく。
画家として一世を風靡し、今でも根強い人気のある夢二だが、女性遍歴を繰り返し、夫や父として欠点だらけだけでなく、愛した女性たちをも振り回してしまうという典型的なダメンズ。
本作では夢二に振り回された代表的な美女二人が登場する。
彼の生涯唯一の妻・たまきを黒谷友香さんが嫉妬に身を焦がして狂気を滲ませる女性として演じ、もう一方の、彼が最も愛した女性・彦乃を小宮有紗さんが芸術家としての彼を理解し、そのミューズたらんとする女性を体当たりの演技で表現している。
この二人の女性の間で揺れ、芸術と現実との落差の中で失望したり、葛藤したりする夢二を、NHK連続テレビ小説「カーネーション」に出演した駿河太郎さんがエモーショナルに演じている。
夢二もたまきも、そして彦乃も、夫々が思い描いた愛や幸せのかたち、理想世界を抱いていて、それに向かって愛する人と歩んでいこうとしているように見える。
ところが現実の様々な壁、日々の暮らしを支える家計であったり、愛に横槍を入れる存在やそれ故に行き違ってしまう愛、そういったものが彼らの前に立ち塞がって行く手を阻む。
満たされそうで満たされない思いが、彼の芸術活動の原動力になっているように思う。
恋愛物としてはドロドロし、地味でエンターテインメントというより文芸作品の本作だが、映像詩で綴る夢二を通して、芸術とは、愛とは何かということを問い掛けているように感じた。