たく

嘘をつく男のたくのレビュー・感想・評価

嘘をつく男(1968年製作の映画)
3.5
難解で知られるアラン・ロブ・グリエの監督3作目で、ウォッチリストに入れたままなかなか手が出なかった作品。やっと観たけど、やっぱり良く分からなかった。レジスタンスの英雄の同志と名乗る男がその英雄の家族の前に現れて語り始めるも、何が真実なのか分からないまま進んでいくという幻惑的な話で、現実のようで非現実的な映像が繋がっていく構成に真実は一つもないんじゃないかと思わせる。いわゆる「信頼できない語り手」で、映画の作り手そのものを言っているのかと思った(これはスピルバーグの「フェイブルマンズ」にも繋がる)。ホルヘ・ルイス・ボルヘスの短編が下敷きになってるとのことで、以前に彼の怪奇譚集を読んだ時、話のプロットだけを提示するだけのシンプルな作りにかなり奇妙な印象を受けた記憶がある。

タイトルバックで兵士に追われる男が登場し、ちぐはぐな映像編集にここで起きてることが現実なのか怪しくなってくる。タイトルからしてこの男が話すことは本当じゃないんだろうなと思わせて、実際その通りになっていく。まずこの男がジャンと自称するんだけど、それは第2次世界大戦末期のスロバキア共和国(劇中でそういう説明は一切無し)のレジスタンスの英雄のことで、実際の彼はジャンの同志のボリス(これも自称)。彼がジャンの故郷に現れ、ジャンを待つ館の女たちに近づいていく展開。

ジャンの妻、妹、使用人の3人がフワフワと戯れ合ってるのがシュールで、彼女たちにジャンの消息を語りながら誘惑していくボリスが自分は実は裏切り者だと告白する。もうこのあたりで何が本当か全く分からなくなるんだけど、ジャンの幻想に苦しめられるボリスが遂にジャンに撃たれて死に、冒頭の逃走シーンに戻っていく円環構造。ここで語り手がボリスからジャンに入れ替わるんだよね。面白い演出と思ったのが、薬局の女が持ってた薬品リストが実はアルバムで、ボリスとジャンが逃走してる写真がまるで映画のワンシーンに見えるところ。館の壁に飾られた数々の肖像画がこちらをじっと見つめてくるのも印象的だった。
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