KHinoji

空人のKHinojiのレビュー・感想・評価

空人(2015年製作の映画)
3.7
監督は小沼雄一。あのJK麻雀漫画「咲」の実写化プロジェクトで監督をやってる方です。咲では、若い女の子が掃いて捨てるほど沢山登場しますが、こちらは戦争で生き残った人の現代のお話、つまり老人の物語ですね。JKからジジイまで、振り幅広すぎ!(笑)

良く言えば、なんにでも対応できる有能な監督さんと言えましょう。

実際に戦争で生き残った方の小説が原作。実体験を基にしたフィクションという形の映画です。

終戦直前のゼロ戦による特攻をわざと体調不良になることで回避し生き延びることに成功した青年。だがその代わりに、親しい先輩が出撃することとなり自分の代わりに特攻・戦死してしまう(空人になる)。その先輩の妹を結婚の相手に紹介されていたのだけど、生き残ったことの後ろめたさもあり、戦後その先輩の遺族や妹さんに会いにいく事も無く約70年、別の人生を生きていた。戦後の復興のために水道屋となり、結婚した妻はすでに亡くなっているが、今では孫もいる人生。
…だが老齢になり死期も近づいた事から、人生のやり残しを解消するべく、先輩の遺族のもとを訪れることをやっと決断する。
先輩の妹はすでに亡くなっていたが、遺族との昔話とその地元の風習・儀式から、死者である妹さんと生きている自分との結婚式を行う事を決めるのだった。
…こうして自分の戦後にひとつの決着をつけ、時間的には残り少ないだろうとはいえ自分の人生を最後まで生きようとする意思を示して、この物語りは閉じる。

全体的なストーリーは以上のようなものですが、主人公の複雑な心情だけではなく、主人公の現在の家族、先輩の遺族、などいろいろな立場の人たちの葛藤や苦悩が語られる。特に主人公の息子夫婦との関係の演出はうまいと思った。高橋かおり演じる亡き妹の親族との関係が老いらくの恋といった感じでほんのり色っぽい。

戦争の記録を残す事にどれだけの価値があるのか、実際のところ私にはわからない。が、この原作小説を書き残そうとした人がいることも事実だし、この映画が撮られたことも事実である。

ps.
レンタルDVDではところどころ画質が悪いのでご注意を(撮影の問題か、DVDオーサリングの問題かは不明)。

(2018/8 レンタルDVDにて)
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