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ザ・ビッグ・シェイブ(原題)のTnTのレビュー・感想・評価

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 髭剃って、血が出過ぎる。単にそれだけだが、男の平然さと一定のBGMが流れる中、異常な行為のみが足されるだけで全て異化してしまう面白さ。スコセッシ映画にかかせない音楽と暴力のマリアージュを堪能できる。

 また、初期作には全てが詰まっているわけで今作だってその例外ではないはずだ。髭剃りを一度して、もう一度髭を剃り始める。普通からもう一歩切り込む。通常の髭剃りは彼にとっては身だしなみを整える行為ではない。つまり、整える行為の髭剃りで血で汚れるナンセンスなのではなく、血が滴る顔こそ男の正装であり整いであるということである。スコセッシのどの映画の男も暴力に飢え、血を渇望してるかのようだ。「タクシードライバー」のトラヴィスらしさは、あの血濡れるラストであったではないか。ウィリアム・ブレイクの詩のように凶暴を身に備えて生まれてしまった虎(=男)の不条理を、スコセッシは描き続ける。血も滴る良い男として、今作の人物は完成される。

 また、剃るという行為もスコセッシ映画では特別な気がする、それこそトラヴィスのモヒカンに感じたり、「ウルフ・オブ・ウォール・ストリート」にて丸刈りにされる女性の剃刀音がやたら耳障りであることに共通点がありそう。髪を剃ると言えば思い出すのは「フルメタルジャケット」だが、つまりベトナム戦争への訓練兵の正装が髪を剃るものであるのだ。スコセッシは徴兵を拒否できたそうだが、だからこそ丸刈りと戦争、暴力は絡みついて彼の中に記憶されているのかもしれない。というかトラヴィスのモヒカンは帰還兵としての彼なりのなんちゃってなりきりみたいなものだったのかも。って書くと、帰還兵だったか怪しい節もあるんだけど。普通の身だしなみができない男の不器用さ、デートでポルノ映画誘うみたいなダサさの原点は、剃り過ぎて血まみれの今作の人物だと言えなくもない。
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