櫻イミト

オペラ座の怪人の櫻イミトのレビュー・感想・評価

オペラ座の怪人(1925年製作の映画)
4.0
フランスのガストン・ルルーによる怪奇ロマン小説「オペラ座の怪人」(1909)の2回目の映画化(1回目1916版は現存しない)。主演は”千の顔を持つ男”ロン・チェイニーでメイクも自ら施している。本作のヒットをきっかけに後年「ユニバーサル・モンスターズ」が始動し「魔人ドラキュラ」(1931)「フランケンシュタイン」(1931)が生まれることになり、“ひな型”的な一本とされる。日本公開時の邦題は「オペラの怪人」。※監督は三転している。

最強のゴシック・ホラー・エンターテイメント!チェイニーの意匠による怪人エリックのインパクトあるルックスと見得を中心に、絢爛豪華なオペラ座の巨大セット、その地下水路に築かれた迷路のような屋敷、テクニカラーの仮面舞踏会、“サソリとバッタ”などカラクリ仕掛けの小道具、セーヌ川でのクライマックスと、ザッと挙げただけでも見所満載、全体を貫くドイツ表現主義的かつハリウッドならではの派手な映像に魅了される。

また、後作の多くが“シャンデリア落下”を後半クライマックスにあてているのに対し、本作では序盤で早々と披露し、エリックの素顔も映画の中盤で明かされる。この展開の早い構成もエンターテイメントとしての強度の理由と言える。

惜しむらくは、二度の監督交代により撮影と編集が重ねられ、微妙につながらない設定があるところ。制作過程では原作にあったエリックとクリスティーヌのロマンスも撮られていたようなので、それがあればより完璧だったと思う。

本作のチェイニーは素面がわからない程の特殊メイクを施していることからか、チェイニーのマニアからは低評価される向きもあるようだ。しかしその迫力ある立ち振る舞いと、メイクを突破して伝わってくる鬼気迫るような哀しみは、チェイニーにしかできない一世一代の名演だと感じた。

内容も演出も、現在に続くハリウッドエンターテイメントの基本となる大傑作。

※本作で作られたオペラ座のセットは、1943年版他多くの映画でも使用され、今もユニバーサルスタジオに残る世界最古の現役映画セット。

※怪人の地下屋敷は「市民ケーン」(1941)「サンセット大通り」(1950)の屋敷描写と並んで語り草となっている。

※藤子不二雄「魔太郎が来る‼」に出てくる「怪奇や」の主人は、常に本作の怪人のマスクをかぶっている。

※仮面舞踏会の髑髏マスクに赤マントの怪人の出で立ちは、戦前日本の紙芝居「黄金バット」(1930:昭和5年~)にそっくり。本作の影響があるのかもしれない。
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