なんち

スイス・アーミー・マンのなんちのネタバレレビュー・内容・結末

スイス・アーミー・マン(2016年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

おバカ系コメディなのかと思って観たら自分探し系ロードムービーだった。
社会へのちょっとしたアンチテーゼと主人公の内面的成長という王道的な骨格に何故か下ネタで肉付けしてしまった映画。
屁でジェットスキーしてる絵が撮りたかったという熱い想いを感じる。
正直出オチなんだけど死体を十特ナイフにするって発想がもう天才。

下ネタだらけなのにキレイな音楽とカメラワークで下品さが中和されて不快さが半減している。
しかし劇中で語られているように屁をしない人間はいないし、汚い物は全部見えなくしてしまう社会こそ不自然ではないのかと。
目に見える汚物だけではなく、主人公のように社会と上手く関われない人間も社会では忌避されてしまう。

汚い物、刺激の強い物を過剰に隠そうとしてかえって不自然でいびつで生きづらい社会を作ってないかい?というメッセージを感じるが、そういう観念により強く縛られた人ほどこの映画は受け付けないだろうから届いて欲しいところには届かないってやつだ。
逆に生きづらい勢にはとても刺さるんじゃないだろうか。

果たして遭難とは本当に起きた出来事だったのか。
最後まで見るとメニーの能力よりよほど遭難していたことの方が疑わしい。
いつから何日間遭難していたのか。
スマホの電源が入るくらいだからそこまで長い年月じゃなさそうだが。
どこからが現実でどこまでが妄想か分からないスタイルとても良い。
その辺は実際の遭難と社会的精神的遭難をかけてるんだろう。

ハンクがメニーと過ごす時間はまさに生を感じさせる。
2人は生き生きとして自殺しようとしていたハンクは精神的に生き返り、再び社会と関わるエネルギーを得て帰還する。

生還した結果また社会の厳しさに打ちのめされることになってしまうんだけど。
ただ憧れの人の写真を待ち受けにしてただけなのに可哀想。
何もしてないのに。
でも女性の視点から見たらそんな偶然あるわけないし、絶対ストーカーだし、身の危険を感じるので仕方ない。
あの後誤解が解けていて欲しい。

ただ生還した社会で誤解され冷たい目に晒されても、メニーを守ろうとする姿はグッとくる。
言いたいことをハッキリ言えなかった父親にもハッキリ自分の意思を伝えられるようになって成長を見せてくれる。
旅を経ての成長という王道の骨格がしっかりあるから、支離滅裂でぶっ飛んだ設定でも散らかってない。
起承転結の教科書みたいなストーリー展開をちゃんとやってる。
やっぱ基本て大事なんだなと思いました。

全てハンクの妄想だったのかなと思わせておいてからのあのオチは最高だった。
良質な幻想小説を読んだ後みたいな気持ちになれた。
素敵な映画だった。
なんち

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