笹井ヨシキ

スイス・アーミー・マンの笹井ヨシキのネタバレレビュー・内容・結末

スイス・アーミー・マン(2016年製作の映画)
3.4

このレビューはネタバレを含みます

何となく面白そうだったので鑑賞して参りました。

期待通り面白かった!

放屁でジェットスキーするとか、ペニスがコンパスになっているとか、そういう楽しいけど幼稚な発想を単なる即物的なしょうもないギャグとして消化するのではなく、その幼稚さ自体が主人公の対峙すべき一部として意味を為しているところが素晴らしく、ボンクラな自分には刺さる作品でした!

恋愛に奥手な自分にコンプレックスを抱えた主人公が、その現実逃避の末に具象化された存在と交流し成長・再生していくファンタジーという意味では、同じポール・ダノ主演の「ルビー・スパークス」があり、今作はかなり似た要素を持っていますよね。

あちらも疑似恋愛で得られる多幸感と内省による成長を見事に描いた素晴らしい作品でしたが、今作はどんなに醜く恥ずかしい姿もさらけ出す自己肯定の大切さを描いており、「これは俺の映画だ!」と思いました。

まず主演の二人が良いですね!

ポール・ダノは「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」や「プリズナーズ」などの曇り無き悪の素質を潜在した人間を怪演するイメージがあるのですが、人生に行き詰まった若者の演技も素晴らしいですよね。
割と突飛な展開が続く今作には、ポール・ダノの持つ「いつ何をやってもおかしくない」危うい雰囲気がマッチしていて全体の説得力を補っていたと思います。

ダニエル・ラドクリフも良いですね。
死体を演じるという難しい仕事をコミカルな動きで表現していたし、ハリー・ポッター的な「何でも出来る可能性の塊だけど何者でもない」彼が恋をすることで物語を牽引していく役割をしっかり果たしていたと思います。

メニーはハンクの本能や願望が具現化した存在であるのはかなり分かりやすく描かれているのですが、特徴的なのは「ルビー・スパークス」のルビーと同様に、メニーはハンクの幻や妄想ではないという所ですよね。

終盤で他人にもその姿が視認出来るように、一見すると気味悪い死体のメニーは紛れもなく本物で確かに存在するんです。

おしゃべりでピュアで何でも出来て恋もして、人前でオナラも勃起もして、それはひた隠しにすべき恥ずかしい存在かも知れないけどそれ自体が奇跡で素晴らしい。
ラストシーンで衆目に晒され意中の人にドン引きされながらも、メニーがメニーであった事実を必死で証明するハンクの姿には、本能を押し殺し後悔と共に生きてきた自分のような人間に深く突き刺さり、それを証明するかのように動き出すメニーを見送るラストシーンは感動しました。

時に本能と共に生きていくことは悪いことではない、と暖かく讃えた正に奥手のボンクラのための映画となっていて狂っているけど暖かい作品だと思いました。

あえて言うならサバイバル映画としては物足りない部分も多いし(というか実際何のサバイバルもしてないからしょうがないんだけどw)、恋人云々の話が出始めると自分の生死より別の方向に話が行き過ぎて若干置いてけぼりになるところもあるんですが、この唐突さに乗れる人はとことん好きになれると思います。

監督のダニエル・シャイナートとダニエル・クワン(通称ダニエルズ)にはこれから注目して行こうと思います!
笹井ヨシキ

笹井ヨシキ