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スイス・アーミー・マンの3110133のレビュー・感想・評価

スイス・アーミー・マン(2016年製作の映画)
3.1
一点を除けば傑作

すごくいい作品だと思える要素と、どうしても受け入れられない邪悪さがあって、どうにも冷静に観れない。

全体を構成する映像的センスは好きだし、とにかく、バスの遊戯のシーンは深く感動する。あそこだけ切り出して壁に飾っておきたいと思う。
(ケンダル・ウォルトンが精緻に描き出す、ごっこ遊びがもつフィクションとしての表現行為!)
一点、どうしても受け入れられない点を除けば、かなり好きな作品なのだろうと思う。

それは、死体の描き方。そのようにする意図はわかるのだけれども、邪悪だと感じてしまう。
死体が本来持っている、もはや生きておらず、役に立たないものという性質と、
映画内で、妙に生き生きとし、とても役に立つものとして描くという正反対の性質(「死者」としてこの世に生きる私たちに影響を与え続けるという性質の暗喩なのだろうけど)とが共存するさまを、笑いと共に受け入れられればいいのだろうけれど。

このいらだちは個人的な経験などに起因するのだが、研修で訪れた施設の身体が不自由な方々や、晩年の祖父やガンに冒された母の有様が引きずり出されてしまう。
そういった、連想的な見方、類比性によって表面ばかりに目を奪われる様は、ベンヤミンが「感傷的人間」として批判したあり方なのだろうと思うけれど。死体をそういった意味から解放して捉え直すという、アレゴリー的視点に立てない程に、死体の有様が現実を引き連れてしまう。
言いがかりみたいなものなのかもしれないけれど。

輝かしく、センスに突き動かされながらも、どこか思慮が浅く、暴力性を含んだもののように感じてならない。
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