ゆうすけ

パターソンのゆうすけのレビュー・感想・評価

パターソン(2016年製作の映画)
3.7
個人的に本を読む方だが、今まで詩集に触れたことがあまりなかった。短文でその情景と自らの心情と信条を踏まえ、時にシンプルに、時に複雑に、そして時に風刺を込める。詩は、短文が故に、受け取る側の状況次第で、簡単に大きく意味が左右する。または全く異なる意味を生み出すのかもしれない。それか、万人共通の意味しか表現できない、それか、意図的に敢えてひとつの意味を表現している。
この作品は、彼が創る詩がストーリーの舵を握っているが、特に荒波もない早朝の水面のように、ゆったりと、また静かに流れる二人の時間と日々の日常に、舵の操作は難しくなさそうだった。一週間の中で、訪れる微々たる変化と多彩な個性は、舵で操作するのではなく、その流れに乗るように、逆らうこともなく、進んでいる印象だった。それは、彼の寛大な優しさと、良い意味での無関心が成す舵技術なのかもしれない。
また、彼の妻の、彼への愛やリスペクトは、とても感傷的になる。私自身、とにかくここまで自分を信じてくれて背中を押してくれる人には、今までひとりしか出会ったことがない。そのような妻の、自由放任かつ繊細な感覚や芸術をたった120分の中で多大なセンスとして見せてくれた。とても重要なことは、好き勝手やっている妻ではなく、夫を芯からリスペクトした上で、妻自らの存在を自らが全力で肯定しているということ。
端的に言えば、とても好きな妻の姿である(愛する人をリスペクトするというところと、言葉では表現出来ないセンスがあるところ)。
さらに、個人的に作品内で注目したのは、“双子”というキーである。決して、このキーは舵を握っている詩に出てくることなく、妻の夢と登場人物だけ。ただ、様々なスタイルの双子が映し出される。結局自分の中では、勝手に、パターソンと、パターソンが好きな、そしてこの作品のモデル詩を書いたウィリアム・カーロス・ウィリアムを双子と位置づけ、生身は違うものの、双子がなす共通思考から生み出すひと節ひと節こそ、作品中に双子を時折一瞬だけフォーカスする意味なのではないか。そんなように感じました。
おすすめの仕方がわからない作品だが、言葉が好きな人、言葉を大切にしている人であれば、一度、観て頂いても良いかもしれません。

追記、愛して止まない『スターウォーズ』シリーズのカイロ・レン役でお世話になったアダム・ドライバーの演技は、いつ観ても、どの作品を観ても、とにかく自然で大好きです(スターウォーズシリーズでのドライバーには納得していませんが笑)。
ゆうすけ

ゆうすけ