グラッデン

パターソンのグラッデンのレビュー・感想・評価

パターソン(2016年製作の映画)
4.2
詩とともに紡がれる、緩やかな時間と日常を描いた作品。

物語は、自身が生まれ育った街と同じ名前を持つ主人公・パターソンが、鑑賞者たる我々がそうであるように、日常のルーティンを消化する生活を描いていきます。彼は、月曜日から金曜まで同じことを繰り返しておりますが、毎日の起床時間をはじめ、アート志向の妻の行動(汗)、予期せず発生する事象に巻き込まれる。つまり、全く同じ日は1日たりとも無いということを伝えてくる。

細やかな変化もある日常を過ごしながら、彼は「秘密のノート」に詩を綴る。(PCやタブレットを駆使する妻とは対称的に)スマホは持たないが、運転手を務めるバスから見える風景に目を凝らし、人々の会話に耳を傾ける彼の姿勢は、街を訪れた日本人の詩人(永瀬正敏)の言葉を借りれば「詩的」という表現が当てはまると思います(主演を務めたアダム・ドライバーのハマり具合も素晴らしかった)。静かな田舎町の何気ない日常も、受け止め方によって色彩豊かなものに映ってくるのだと。

ジム・ジャームッシュ監督については、学生時代に『ブロークン・フラワーズ』を映画館に見た時にも、同じような印象を受けました。哀愁さえ漂う男の一人旅は、魅力的なモノではなかったかもしれないが、監督の感性が独特の色合いを引き出していたのが今でも忘れられません。本作も映画館で見ることができて本当に良かったです。

「日常系」として考えれば最大級の評価かもしれませんが、何となく、彼が過ごす日々の生活の続きを見たいと思わされる作品。静かな街の細やかな日常が、愛おしくなっている自分がいました。