SEULLECINEMA

東からのSEULLECINEMAのレビュー・感想・評価

東から(1993年製作の映画)
4.5
まさにリュミエール的回帰そのものとも言えるフィルムだった。映画というのは大元に立ち返れば、一瞬ごとに過ぎ去ってゆく現実をフィルムに定着させて永遠の記録へと変貌させる機構に他ならないわけで、その意味では完璧な映画とすら言えると思う。
それ以上に、リュミエール映画がそうであったように、キャメラを向けることで現実では見えないものが見えてくるという素晴らしさもあった。人々の表情や、馬の歩み、雪の降り方やサラミの切り方など、普通に生きていれば止めようもなく過ぎ去って記憶から遠ざかってしまうものを、キャメラの視線の機械的な等質性が我々に隈なく見せてくれる。
そして、ある種退屈になりがちな記録映画を我々が2時間も飽きることなく観続けられるのは、アケルマンが抜群に映画を上手く撮れるからだと思う。キャメラ・ポジション、キャメラ・アングル、構図、トラッキング、その全てにおいて突出した基本技術の高さがみられる。ときには奥行きを上手く作りながら、ときにはフィルムの運動と直角するかのごとく水平にトラッキングしながら、審美的に完璧なショットを現実のその場その場で捉えてゆくこの天才性は、やはり他の映画作家にはない特質すべき彼女の魅力だと思う。
ただ、一ヶ所だけ下品としか言い表しようのない醜いパンニングがあったので、それは残念だった。
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