じゅ

Ashes(原題)のじゅのネタバレレビュー・内容・結末

Ashes(原題)(2012年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

やたら幻想的で綺麗なサムネイルに釣られて観てみた。よかった。


集落、家族、住民、散歩する犬、雑木林、草原、田畑、鶏の鳴き声、豚小屋の豚、ぽつりぽつりと佇む建物、陽の光。街中の大通りには車とバイクが列をなし、道路沿いには逮捕された家族の解放を願う短冊の数々がぶら下がる。家族写真、森の中の湖のほとりのキャンプ場?再び集落、家族、...。
「夢の中で見た夢だと気づいた。鉛筆を手に取り、色まで再現するよう紙に描いた。その絵は僕の故郷Khon Kaenの変わらぬ景色だった。色のイメージが消え行って、ついに白黒になった。」「たくさんの建物を描いた。我ながら上手かった。上海のMr. Chenに電話し、映画を辞めて、故郷の建物だけを描く絵描きになると告げた。彼は喜び、ディナーに行こうと言った。」語るApichatpong。
寺院の花火と群集。夕食ができたと呼ぶ声。花火の後(?)、燃え上がる炎に水をかける。


MUBI解説だと、本作は愛と喜びや崩れゆく記憶に関する考察なのだとか。日常を取り巻くあらゆるものは極めて親密に関係し合っている。Apichatpongにとって、美しさに満ちたタイは暗闇の中に緩やかに崩れ落ちているのだそう。
本作はLomoKinoという手回し式のフィルムカメラで撮影されたとのこと。結果、余興のような、映画のような、日記のような、不思議で特別なものに仕上がったと言う。

あの花火の前の4~5Hzくらいの映像が醸し出す、遠い昔の記憶みたいな感覚がとても好きだった。あれ手回しカメラで撮ったものだったのか。
燻んだ粗い画がカクカク動いて、ふわふわと場面が移ろう。まるで不確かな記憶の中の思い出みたい。でもきっと綺麗だったことは確かであるのか、あるいは綺麗だったという頭の中での補完が懐かしさ故にあるのか、そんな雰囲気を感じながら観てた。
Apichatpongが語った夢の中の情景を表現したのが、あれらの映像だったのかな。(でも建物は少なかったからそういうわけでもないのかな。)

この頃のタイといったら、2010年4~5月に死傷者も出した民主党政権に対する大規模な抗議運動があったそう。そういえばタクシン元首相とか聞き覚えある。2010/4/10(土)は武力弾圧に発展して、翌日までに確認されただけでも18人の死者と800人以上の死傷者が出たと、ロイターの記事にあった。暗黒の土曜日とか呼ばれているとかなんとか。
そんなことが起こるくらいの不安定な時代が本作の背景にあるのだろうか。ならば「美しさに満ちたタイは暗闇の中に緩やかに崩れ落ちている」とも思って然るべきか。

『Ashes』に込めた意味を考えるとしたら、花火のように綺麗だったタイの国が、花火が燃え尽きてその光が夜闇に消えていくように消えていって、後には争いの後の灰燼しか残らないだろう、みたいなかんじかなと解釈してる。
じゅ

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