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まあだだよのradioradio526のレビュー・感想・評価

まあだだよ(1993年製作の映画)
3.0
「まあだかい」「まあだだよ」

「まあだだよ」鑑賞。

少し前から読んでいる内田百閒の随筆諸々。
夏目漱石の弟子、芥川龍之介の友人にして三島由紀夫が敬愛する物書き、そして偏屈のドイツ語教師にして元祖の鉄道ヲタ。
外山滋比古氏も「50代の頃に出逢った本であり、最も格調高い日本語」と絶賛しておられたのが内田百閒だ。

内田百閒…何故かその名を初めて知った訳ではなく、既に知っていた。
何故、その名前を知っていたんだろうか?
本当に謎だったがふとしたことで気がついた。
映画「まあだだよ」は巨匠・黒澤明の遺作だが、ここで描かれているのが内田百閒だったのだ。
当然ながら随分と昔の映画だが、何かの本で主人公の名前を知ったんだと思う。

作品の中では「内田先生」とか、名前で呼ばれることはない。
ただ「先生は金無垢だ」と…混ぜ物の無い本当の先生として教え子達に慕われる。
学校を辞めても先生は先生のままで年老いていく。
「まあだかい?(まだ死なない?)」「まあだだよ(まだ死なないよ)」
「まあだかい?(まだ死なない?)」「まあだだよ(まだ死なないよ)」

黒澤明監督の「内田百閒への思い」も特別だったらしい。
随筆の中の幾つかの話を入れ込んだこの作品には黒澤明監督の内田百閒への敬慕が込められている。
個人的に好きなのは…戦火に焼きだされて掘っ立て小屋に移り住む百閒先生。
その懐には愛読書の方丈記が1冊だけ。鴨長明になぞらえて小さな庵ならぬ掘っ立て小屋に身を寄せる先生に四季が移ろいゆくシーン。
黒澤監督の凄さを語れる訳じゃないが、このシーンの切り取り方に、遺作として百閒先生を選んだ理由が分かるような気がした。
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