まこぞう

春の夜の出来事のまこぞうのレビュー・感想・評価

春の夜の出来事(1955年製作の映画)
4.0
『ローマの休日』を挙げるまでもなく世界中の大衆が大好きな身分詐称コメディ。
財閥の面白オーナーが自分の菓子会社企画の懸賞スキー旅行にお忍び参加し、貧乏好青年と素の人間として出会う話。
当時のアメリカ映画を模倣したであろう洒落た感じながら、良い感じで邦画らしいダサさもある傑作。

先日観た同じく傑作で同じく西河克己監督作の『風のある道』(4年後の1959年製作)と共通点が多くあった、というか構成が似ていた。
本作にも当然、西河監督得意のサービスカットあり。東谷暎子の入浴シーンを筋には関係なくぶっ込み。作家性が希薄な監督と思っていたけど、観客に対しての過剰なまでのサービス精神による作風がだんだん感じられて好きになってきた。大スターが主演じゃない作品が良いという感触。

好青年を演じる元プロ野球の新庄似の脇役俳優・三島耕がまず良かった。その主演を張るにはちょっと酷い大根ぶりが逆にコメディには活かされていた。
財閥の面白おじさんを二枚目俳優の若原雅夫がハゲヅラで熱演。二枚目がそこまでする必要があるかは疑問ながら最高。
伊藤雄之助の幅の広さには毎度感服。本作でもファーストショットから笑ってしまった。
仮装パーティでの東山千栄子のこけしみたいなコスプレは相当ヤバい。三銃士みたいなよそ行きの服装もヤバかった。

黛敏郎が本人の偽者役で登場。ハリウッドを含む欧米の映画でも本人が本人役で出ることが多いけど、偽者役っていうのが邦画らしい。というのも、最近でも大橋巨泉が本人の偽者役で出てたので。外国映画でそういうのは知らないし。あるとは思うけど。

若原雅夫、三島耕、伊藤雄之助の三人の大の大人が雪だるま作りに大はしゃぎをするシーンには泣けた。のちにそれを思い出して言葉に詰まる三人には号泣。ダメ押しというかダサい回想シーンの挿入もここでは許したい。
それにしても西河監督は言葉に詰まって見つめ合うようなシーンが上手いと思う。『美しい庵主さん』でもそんなシーンがあった。

『風のある道』同様、抱擁シーンでもまた泣かされた…。ザ・最高。
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