ちろる

DARK STAR/H・R・ギーガーの世界のちろるのレビュー・感想・評価

3.8
誕生、生殖、死が複雑に絡み合う唯一無二の造形物たち。
H.R.ギーガーの作り出す世界は見てはいけない気持ちにさせられるグロテスクでエロティック。
彼のアートは。彼だけにしか作れない独特で圧巻される唯一無二のものであるのだけれど、彼の作品を見るときにはそのアートをすごい!と見つめるのではなくて、対面したときに自分の中に湧き上がる混沌とした感情と向き合う事が正解なのかもしれない。
なぜならかれも彼の中の混沌(カオス)に押し出されて作品を作り出しているはずだから。
名前は知っていたけど、どんな人物なのか知らなかった。
もっと恐ろしい人なのだと単純だけど思っていたのに、意外にもキュートなはにかんだ笑顔が印象的なおじいさん。
そして、多くの天才と呼ばれるアーチストがそうであるように彼もまた少年のまま大人になった人のようだった。
エロスとタナトスをひたすらに見つめ、現実社会を超越したようなダークサイドにとことん踏み込んだ彼が、
「死後の世界なんてない、死んだら終わりだ」と語ったことは意外だった。

混沌とは、見えない世界の中にあると思いがちだけど本当は、私たちの現存する時間こそ混沌なのだという答えにたどり着けば、彼の作り出す世界はグロテスクな異形の存在ではなくて直視するべきリアリティなのかも。
いま彼はもうこの世にいないのだけど、彼の言う通りだとすれば彼はすでに無なのだ。
でも彼は死ぬ前に言った。
思い残すことは何もないと。
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