えいがのおと

バースデーカードのえいがのおとのレビュー・感想・評価

バースデーカード(2016年製作の映画)
4.2
隅から隅まで丁寧に作られた、心温まるヒューマンドラマ。

ある時期の日本映画は、ほとんど宮崎あおいだった。そして、ある時期の日本映画は、ほとんど橋本愛だった。
今で言えば、二階堂ふみだろうか、集中した時期に多くの監督が魅了され、起用したくなる女優がいる。本作のダブル主演とも言える、宮崎あおいと橋本愛にもそんな時期があった。脇役でも独特な存在感を放ち、主演作品も公開されていく。今の日本映画と言えば彼女、といったように。
しかし、そうした旬の期間は永遠ではなく、宮崎あおいは私生活のイメージからか、橋本愛は年齢による容姿の変化からか、2人の露出は減ったかに感じていた。もちろん、輝かしい場でという意味だが。
そんな2人が、ダブル主演のような形で出演する本作は、期待が募る分、不安もあったが、見事と言わざるを得ないほどの仕上がりだった。

物語は、宮崎あおい演じる亡くなった母親からの、誕生日毎に届く手紙と共に、橋本愛演じる娘の成長が描かれる。
ユーモアや、思春期独特の葛藤を交えながら映される、彼女の物語は、誰にでも起こり得るありきたりなものだ。
普通、スクリーンに映し出されるべき主人公は、もっと劇的な人ばかりかもしれない。女子高生が機関銃を持ったり、今であったら、どこかの男の子と夢の中で入れ替わったりと。
そんな彼女の脇役人生だって、輝くときも来る。思い出のクイズ番組(ABCテレビが制作委員会に入っていたのは、これだったのかと笑った)や、結婚。
人は誰だって自分の人生の主役になる。そんな、母からのメッセージを胸に、彼女はたくましく生きていく。

橋本愛は劣化した。
そんなことが、よく囁かれるようになった。学生服を、同年代の誰よりも魅力的に着こなしていた彼女の面影はどこへやら、激太りや劣化などと揶揄されたものだ。
本作の彼女も決して美しくない。いや、どちらかと言えば、ダサい。これでは、クラスにいても目立たないだろうし、虐められたっておかしくない。やっぱりもう橋本愛は終わったのかと見ていると、度肝を抜かれる。
彼氏の前、また、ウエディングドレス姿の彼女は、別人かと思うほど、可愛らしく、美しいのだ。脇役人生の彼女が輝く時、かつて一世を風靡した橋本愛が出現するのだ。
つまり、あえて可愛くしていない、可愛く撮らないことによる、徹底的なキャラクター作り。そうして物語のどこにでもありそう感が、深まっていく。
この丁寧さは、作品の随所に見られる。
時系列に合わせた小道具や、設定はとても凝られている。母親のピンクレディの思い出、銀杏BOYZや、ROCKINJAPANのTシャツ、蒼氓、そしたアタック24…こんな、知ってるものたちとの共存に、私たちは、現実との地続き性を感じる。
どこまでも作りこまれた、彼女のどこにでもいそう感は、丁寧で美しい映像で捉えられ、美しい音楽で彩られる。とても映画的で、心地の良い画面作りだし、音楽も録音も緩急のバランスがちょうど良い。
一方、ハレの日の主人公的な彼女は、ドラマ的で能天気な雰囲気で捉えられる。非日常、作り物感が満載で、浮き足立っている様子が感じとれる。
そうした、役者、物、設定、撮影、音、全てが丁寧に作り上げられることで、母からのメッセージが深く観客に届くのだろう。

さて、母親役の宮崎あおいは、有無を言わせない存在感。聖母マリア的な神聖さ。多くを述べたが、彼女であることに、強い説得力があった。全く衰えませんね。
これから、またまだ出突っ張りとなる女優さんです。