曇天

ゴッホ~最期の手紙~の曇天のレビュー・感想・評価

ゴッホ~最期の手紙~(2017年製作の映画)
4.3
ゴッホの絵の中の情景が多く登場する。持ち味のパースの狂った室内の床など笑ってしまう。それらもカメオ的映り込み程度なので、知らなくても全く問題ない。実際自分は知らないまま観たら最後に結構驚いて、知らないまま観たことで得した気分。実話の映画化では、現実と脚色との比較が必ず付いて回って面倒なこともあるが、これは功を奏した例だと思う。ちなみに今回はまだ比較してないうちに感想書いてます。

主人公は死んだゴッホが弟に宛てた手紙を届けるため旅に出る。聞き込みでは皆んなが違うことを印象的に喋っていて誰も信用できなくなる。サスペンス調で話は進んで行くが、驚くほどテンポが良い。お陰で近頃の寝不足にもなんとか耐えられた。
確かに、映画の「画」を絵画で描くという恐ろしい労力をかけているので無駄なシーンは許されないはずだ。油絵は重ね塗りができるのでアニメに向いていると誰が言い出したんだろう…。同じキャンバスに何度も描き込んで動かしてるみたいだから、同じ絵は撮り直しができない。その上ゴッホが死んだ後の話をゴッホ調で描くものだから、死人が起き出して描き始めたかのようだ。ロトスコープだからゴッホ自身の絵に比べてやたら写実的で気持ち悪い。100人以上の画家が制作したというが、それ全員現代に蘇ったゴッホじゃないよな。そういう錯覚や妄想が捗る楽しい主題。

お話の帰結として取りうる落としどころとしては、今はゴッホが天才だと知られた世界であるため、生前報われなかったゴッホの悲劇性を押し出す形が想像できるんだけど、それだけじゃないのが大変素晴らしい。
エンディングではゴッホの作品を全然知らないからこそ驚かされ泣かされた。怒涛の伏線回収。ドキュメンタリーでなく脚色でなければ語れない話だ。今でいうならアウトサイダーアート、そのゴッホは報われた、でも他の無名の画家達は? 権威だけが全てじゃない、報われなくてもいい、そんな風に思わせてくれるエンドロール。
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