海

ノー・ホーム・ムーヴィーの海のレビュー・感想・評価

ノー・ホーム・ムーヴィー(2015年製作の映画)
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完成した家族がこの世のどこかにたったひとつでもあるだろうかと思う。美しいだけの親子が、幸せなだけの展望が、嘘ひとつない過去が、暮らしを覆い隠してきた家の中にはたして存在し得るだろうかと思う。暗い空のもとで吹く風が木々を揺らしているのをただ見ている、車窓を流れていく荒れ果てた土地、雨が意味もなく濡らしていく広いばかりの庭、わたしはいつでも自分の中のすべてを自分の外側へ放ちたくて必死だった。それでもあなたはわたしの中に眠る言葉のほうを信じた。細い枝が頬を叩いた、溝の潰れたタイヤが小さな石を踏んで、傘の届かないずっと向こうに傘を差してあげたいひとが立ってる。あなたに愛されているかぎりわたしはあなたを愛することを許されないような気がする。母と手をつながなければどこへも行けなかった頃、今よりもずっとずっと、世界は美しかった、疑いようなく、世界はうつくしかった。
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