いずぼぺ

ミス・エバーズ・ボーイズ~黒人看護婦の苦悩~のいずぼぺのレビュー・感想・評価

3.5
元々テレビドラマのカテゴリーで作られてるのかして、やや淡白な内容に感じる。テーマはとても深いのに。

タスキギースタディといわれる人体実験と言ってもいい梅毒患者への「科学的考察」プログラムに関わることになった看護師が上院公聴会で証言する形でプログラムを明らかにしていく。
1930年代にスタートしたこのプログラムはそもそも、黒人は病気にかかりやすい下等な人種という恐ろしい偏見からはじまっているようだ。今でこそ梅毒はペニシリンによって治療可能な病気であるが1900年代半ばまでは死因の上位にある病気だったと記憶する。
実際、この夏に大阪梅田の北ヤードで発掘された江戸~明治期の集団墓地でもかなりの遺骨に梅毒の痕跡が見られたという。性的感染症知識の浸透度を鑑みると本作舞台となっている時代とアメリカ南部という背景からして梅毒の広がりは現代の私たちの想像を超えていたに違いない。
話を戻す。そんな時代に「梅毒の治療をしなければどうなるのか」を400人を超える患者で「経過観察」を40年も行っていたのだ。もちろん、このプログラムに関わった医療関係者には悪意があったわけではない(そう思いたい)。白人も黒人も病気にかかって病変していくのは同じ、人種に関係はないと科学的に明らかにしようと本気で信じるしかなかったという一面もあったようだ。
このプログラムに関与した関係者は訴追されなかったという。しかし患者、遺族に賠償金を支払う命令が出たのは1974になってからである。

ここまで述べた本作が描いた自由と平等の国アメリカの闇は医療制度だけの問題ではない。人種差別によって経済的成功を奪われた黒人には教育格差が生まれる。毎日必死で野良仕事をこなし、南部のプランテーションを支える黒人には高等教育どころか初等教育すら受ける機会が少ない。勉学はプランテーションの農奴には要らない知識だったから。これを2世代繰り返すと正しい情報や知識をアップデートする土台が失われる。自分たちの尊厳や生命に関わることであっても土台が育っていないと何が大切で何が間違っているのかを見分ける力すらコミュニティから奪われていくのだ。
そしてもっと深い溝を作ってしまう。差別する側は自らの犠牲となった者の痛みを忘れ、差別される側は虐げられていることが常態化して本来守られるべき尊厳すら忘れてしまう。
こんな無限ループ、どこかで最近みたよね。そう新型コロナ。
ワクチンの奪い合い、医療態勢の不均衡、感染拡大のマップ、同じものがみえてきませんか?数えられる数字も数えられない数字も想像してみてください。
300-107

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