湯っ子

だれかの木琴の湯っ子のレビュー・感想・評価

だれかの木琴(2016年製作の映画)
3.8
フィル友さんのレビューでなんとなく気になっていた本作、古本屋さんで原作をみつけたので読んでみた。井上荒野はこれまでに数冊読んだけど、乾いた文体でじっとりした感情を描く感じは、けっこう好き。
映画は、同じ作りの部屋が並ぶメゾネットタイプのアパートを無機質に映していくカットから始まる。この時点ですでに原作の空気感を醸し出していて、一気に引き込まれる。
結局大きな出来事は起こらず、行って帰ってくるだけの話。そしてだからこそ、ひとごとではないのだ、と背筋が冷える。
終盤、原作にはない、娘の成長を思わせるセリフがある。これがわずかに本作に明るさを加えているようでいて、この少女も確実に女になっていくことを感じさせる空恐ろしさもある。
静寂を上手く使っていて、たまに流れるちょっと不思議な音楽と、エンドロールでの井上陽水がやけに胸に迫る。



東陽一監督のお名前は本作で知ったけど、大ベテランらしく、本作は80歳を過ぎて撮った作品とのこと。お見事です。
役者さんたちもなかなか豪華。岸井ゆきのが受付してて池松壮亮と山田真歩がカットしてくれる美容室なんて!常盤貴子が普通の主婦の平凡さを体現しつつ、妖艶さや薄気味悪さも感じさせて、良い歳の取り方をしてる。勝村政信が夜の街で買う女は河合青葉。佐津川愛美のロリータファッションとヒステリックな物言いはハマっていた。最初の方の美容室のシーンで、なぜこのおばさんを映してるのかな…と思っていたら原作者の井上荒野だった。
湯っ子

湯っ子