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リトル・マーメイドのTSのレビュー・感想・評価

リトル・マーメイド(2023年製作の映画)
4.0
【オリジナルとの変更点がどう左右するか】84点
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監督:ロブ・マーシャル
製作国:アメリカ
ジャンル:ファンタジー
収録時間:135分
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 2023年劇場鑑賞24本目。
 さて、注目度の高い今作。今作はかねてより実写化が企画されていましたがどうもうまくいきませんでした。そういえば今から7年程前から今作の実写化は企画されており、その時アリエル役に選ばれていたのはクロエ・モレッツでした。ところが彼女が俳優業を休止したことにより企画は白紙となり、それからまた数年後に実写化企画が浮上しました。そこでアリエル役に登用されたのがハリー・ベイリーです。ここはやはり賛否両論ありますが、このメガタイトル級の作品の主人公に非白人系の方を登用してくるということは、差別なきディズニーが思い描く究極の形が完成されたといっても良いのかもしれません。ちょうど今年はディズニー創立100周年ということもありますし、新たなフェーズに入ったと言えそうです。

 あらすじは割愛。いわずもがな、アンデルセンの『人魚姫』を題材としたディズニーの『リトルマーメイド』を実写化したもの。昨今、『アラジン』や『美女と野獣』などの非3Dアニメーションの作品を実写化する動きが流行していますが、今作がその最終企画ではないでしょうか。他に残っているビッグタイトルといえば『ヘラクレス』くらいでしょうか。しかし、技術的に最も難しいのは今作と言えましょう。なにしろ、物語の8割近くは水中シーンであり、CGでなんとかなるとは言っても、人間の動きは本物であるため細かいことは知りませんがとにかく困難の極みであったことでしょう。昨年度末に大ヒットした『アバター ウェイオブウォーター』は記憶に新しいですが、あちらもほとんどが水中シーンであり、俳優たちがモーションキャプチャーで実際泳いだりして映像化してることでしょう。そのような高度な技術が安定化してきて、このような作品がやっと作れるわけですから、『リトルマーメイド』が実写化映画最後の砦となったのも頷けます。実際映像美は素晴らしく、特に深海の暗いシーンからの地上の鮮やかなシーンの対比は素晴らしいです。これはアリエルの外の世界=地上という憧れも描いているのかと思われます。

 さて、ではオリジナルに忠実かというとそうではないところがあり、そのあたりは賛否両論。というかオリジナル主義の方が見ると今作はやはり少し厳しいのかもしれません。そもそもやはりアリエル役のハリー・ベイリーの容姿がオリジナルアニメのアリエルとはやはりかけ離れています。こういうと人種差別だ!と言われるのですが、オリジナル主義の方は何も差別をしているわけでなく、ただただ自分の中にあるアリエル像を崩してほしくなかっただけのことだと思います。そこはお互いの主張が分かり合ってもらえたら良いなとも思いますが。。セバスチャンも純度100%カニなので、これも好みが分かれるか。。ただ、リアリティに関しては『ライオンキング』で一度行なっているので、個人的にはそこまで違和感はありませんでした。

 個人的な感想をいうと、今作の主人公はアリエルでもエリックでもトリトンでもないなと思いました笑 では、誰が主人公で途轍もなくインパクトがあったかというと、圧倒的にアースラでした笑 もう一にも二にもアースラ。メリッサ・マッカーシーの清々しいほどの怪演には満足させられました。有名なアースラのミュージカルシーン、ラストの対決シーンなど、やはり見終わってから鮮明に思い出されるのはアースラのシーンばかり。まあでも悪役が輝くのはある意味素晴らしいことだと思います。そんな彼女も実はトリトン王から排除されて暗い暗い深海で生活することを余儀なくされた可哀想な存在でもあるのです。大人になってこのあたりを見てみると、このアリエルとアースラの取り引きって、アースラにとってどの程度の利益があるのか?そんなまわりくどい契約をしないと目的は果たせないのか?などツッコミどころは結構あるのですが、そのあたりは置いといてとにかく目的遂行のために怪演を演じ切ってくれましたので良かったですね。

 それにしてもこの歳になって見てみると、この『リトルマーメイド』という作品は社会的なテーマを内在しているなと思いました。人魚は人間を恐れる。これはやはり差別が横行する人間社会の縮図とも思えました。また、地上に出て歩きたいという願望は、失礼な表現になるかもしれませんが、実際に足を失ってしまった障がい者の願望にも似ているのかもしれません。また昔の人々はこの世界が何なのかを知りたくて、命を賭してでも海を渡り未知の世界に行こうとする。我々が宇宙の全貌を未だ理解していないように、この世界の人々もまた、地球の全貌を知らなかったのでしょう。この人間の探求心というものも素晴らしいものであると理解されました。やはりディズニー作品は子どもの時に見るのと、大人になってから見るのでは一味も二味も違うということなのですね。

 有名なミュージカルシーンは序盤に集中してるため、中盤は少し中弛みします。実際135分は子どもには少々辛い上映時間。総合的にはなかなか良かったと思われますが、やはり『美女と野獣』や『アラジン』には一歩及ばないかなと感じました。原作に忠実に、となるとやはり多方面から細かいことを言われてしまうであろう今作。歴史に残るほどの名作にはならないのではないかと推測します。とは言え映画館で見るべき作品ではあるので、なるべくIMAXなどの環境の良い劇場で見ることをオススメします。
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