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リトル・マーメイドのよーだ育休中のレビュー・感想・評価

リトル・マーメイド(2023年製作の映画)
3.5
海の王Triton(Javier Bardem)の末娘である人魚のAriel(Halle Bailey)は、陸に暮らす人間の世界に興味を抱くおてんば娘。ある晩、彼女は沖合に停泊していた交易船の宴を覗き見た際、爽やかな人間の王子Eric(Jonah Hauer-King)に恋をしてしまう。


◆ Wandarin' free ー

1989年に公開されたディズニー長編アニメーション映画を実写化した作品。アニメ映画版の『リトルマーメイド』を観たことが無かったので、前日にアニメ版(地上波吹替放送の録画)を鑑賞した上で劇場へと足を運びました。

実写版の基本的なプロットはアニメ版とほぼ一緒。所々アレンジがなされていましたが、そのアレンジは良いものと悪いものと「両極端」であったように感じます。84分のアニメ版の尺に対して135分にも及ぶ今作。不要だなと感じるカットはいくつかありました。

そして、公開前から物議を醸していたキャスティングの問題。当初は「話題作りかな」程度に考えて軽く流していましたが、いざ実際に映画を観てみると、こちらも良い部分と悪い部分が「両極端」でした。


◆ Wish I could be ー

主演の人魚姫Arielを演じた若手歌手のHalle Bailey。浅黒い肌にドレッドヘアは、誰もが知っている《プリンセス・アリエル》とは似ても似つかない姿。正直、これは実際に映画を観てみると違和感がありました。《アリエル》というよりも『スプライス』に登場した人造人間に似てると思ってしまったくらい。

かつて『美女と野獣』の実写化作品でBelleを演じたEmma Watsonや、『アラジン』でJasminを演じたNaomi Scottは、アニメのプリンセスが実写の世界に飛び出してきたかのような美しさに見蕩れてしまいましたが、今作ではそのような驚きはありませんでした。

ただし、Halle Baileyの歌声は本物。序盤から流れる名曲《Part of Your World》は鳥肌が立ちました。Repriseではオクターブを上げて歌い上げるものだから、そのエネルギーは凄まじく、名曲揃いの今作においてヒロインに歌唱力が抜群の彼女をキャスティングしたくなる気持ちもわかります。

ただ、物語の中盤はストーリーの性質上、彼女の最大の武器である《歌声》は封印されてしまいます。今作で要らないと感じたのはこのあたり。声を無くして足を手に入れたArielが、Ericと距離を縮める過程(城での掛け合いや島の探検)をじっくり映すシークエンスは見ていてキツいものがありました。特別に可愛いわけでも、特別に演技がうまいわけでもない彼女が、奇想天外な振る舞いをするだけなので、このシークエンスは捨てても良かったのではと思ってしまいます。


◆ Part or YOUR World.

キャスティングを否定するつもりはないですが、敢えて弱点(アニメキャラに似ていない所)を延々とさらけ出さずに、強い所(抜群の歌唱力)を全面に出していけば、今作の完成度はもう少し高くなったかなとも思うのです。キャスティングではなく演出が悪い。

楽曲《Part or "YOUR" world》を通して《相互理解》というテーマがHalle Baileyの歌声に乗せてズドンと響いたのは、今作でとても良い部分でした。


人間の世界に憧れを抱いていた頃には

・wish I could be part of THAT world.
("あの"世界の一部になりたい)

と歌っていました。それが、Eric王子に恋をしてから再び歌い上げるRepriseでは、オクターブを上げると同時に歌詞の一部を変化させていました。

・wish I could be part of YOUR world.
("あなたの"世界の一部になりたい)


彼女の歌声のパワーと、歌詞のアレンジでグググッと引き込まれたあと、アニメ版では描かれていなかったアンサーソング(Eric王子の視点とコンプレックスについて)も丁寧に掘り下げられていました。距離を縮めるロマンスパートは不必要だと思いますが、この王子サイドの視点を持たせた事は素晴らしい。

海の世界で陸に憧れる人魚とは裏腹、陸の王子は広い大海原への思いに胸を焦がしていました。アニメ版以上に《相互理解》が強調されたラストの演出は勿論すばらしかったのですが、このラストに繋がる物事の多面性、外から見た自分(の世界)を序盤から作品に上手く落とし込めていました。


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改めてアニメ版を原作音声で見直してみたのですが、当時からpart of THAT worldとpart of YOUR world.の歌い分けがなされていたんですね。吹替版だと全然気が付きませんでした。