おいなり

リトル・マーメイドのおいなりのレビュー・感想・評価

リトル・マーメイド(2023年製作の映画)
3.7
そもそもの話、一連のディズニー名作アニメCG実写リメイクシリーズに対してそこまで良い感情を持ってないのですが、本作は例外的に良かったです。

細かいカット割りまでほぼ完コピと言っていいほどアニメ版に忠実に作りつつ、「実写ならではの見せ方」にこだわっていて、アニメ版とは別ベクトルでよく出来ていた。水中での動き、髪の揺らぎ、差し込む光、どれもハッとするほど美しいのに、違和感を感じさせない自然さ。
アリエルがパート・オブ・ユア・ワールド歌ってる背後で波がバァッと広がるシーンまで寸分たがわず再現されてて、オタクみが強い。
映像美というジャンルにおいては、もうディズニーは他社より一歩どころか三歩は先に進んでるなと思わされる。

もちろん、ライオンキングのスーパーリアルCGにも最初は驚いたし、制作風景とか見ても来るとこまで来たなと思わされたけど、写実性ゆえに表情が読み取りにくいとか、全員ライオン過ぎて見分けがつかないとか、実写(CG)ゆえのダメな部分、映画として破綻してる部分が見えてしまって、アニメ版に勝ってる部分がないなと思ってしまった。

映像だけじゃなく中身も変えちゃえば、というとこないだのピーターパンみたいに、何が何でも令和ナイズさせたい意識高い系制作陣によって原作の良さが上書き保存されてしまったりして、このバランス感覚が優れたリメイク作品というのがなかなか出てこなかった。

その試行錯誤の末に、本作はかなりいいとこまで行ってるなと思った。
変に大人向けだの現代向けだの人口調味料で上辺の味を作るのでなく、塩と胡椒でシンプルに素材の良さを引き出しつつ現代的な解釈を隠し味にする。
そうすることで、人魚姫というあまりにも古典的なストーリーラインを見事に現代に蘇らせている。
「カレーを頼んだらちゃんとカレーを出してくれる店」という感じで、安心感を感じた。なんでみんな青いカレーとか苦いカレーとか作りたがるんでしょうね。


正直いってポリコレ嫌いの人にはツラい話だろうなぁとは思うけど、個人的には、人魚界と人間界それぞれの偏見を愛で乗り越えて理解し合うという「お伽噺」を人種問題にやんわりと準えるのは、結構スマートな脚本だなぁと感じたので。
多様すぎるキャスティングで話題になった本作だけど(実際にはそれを問題視しているのは10%程度のノイジーマイノリティだけという説もあるらしいけど)、このおとぎ話をつくる上では必然の絵作りだったのかなぁとも思うし、ハリー・ベイリーのどこまでも透き通る、水のような歌声は本当に、本当に素晴らしかったので、全然問題だとは思わなかったです。ぜひ一度は字幕でも見てほしい。
歌声が非常にキーになる物語において、人種どうこう以前に声だけで十分に必然性を感じるキャスティングだと私は思います。

あのラストシーンを見るまでは、まぁまぁ今までよりはマシかなくらいの感想だったんですが、様々な人魚と様々な人間が勢ぞろいでアリエルの船出を見送るカットを見て、これがやりたかったのか!とハッとさせられた。



相変わらずスーパーリアルなフランダーとセバスチャンが1mmも可愛くないとか、昔の男のロールを女に置き換えるだけという発想がもはや古いなとか思う部分もあるにはあるんだけど(もっとも人間の道具を学んだアリエルだからこそアースラをあの方法で倒せたという風にも解釈できるのが面白いアレンジだとは思う)、結構舐めてかかってたので、劇場で見なかったことをちょっと後悔はしてる。
アリエル、声失ってるわりにはその間もずっと歌いっぱなしなので、ミュージカルだからと言われればそれまでなんだけど、あそこは貯めて貯めて最後に取り戻したところで一気にカタルシスを出せばいいのに!わかってねぇな!と思った。
アナ雪の時は、なんで最後までミュージカル貫かんねん!!!!って激怒したけど、歌いすぎもそれはそれで。。。
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