きのこ

婚約者の友人のきのこのレビュー・感想・評価

婚約者の友人(2016年製作の映画)
4.3
戦争が生んだ悲劇と、嘘。
アドリアンの嘘は優しい嘘のように見えて、実はとても残酷な嘘。
知らなければよかった、と死ぬまで思い続けてしまうくらいのものだと思う。
アンナは“嘘”の”真実”を知ってしまったことで、またひとつ、またひとつと嘘を塗り重ねなくてはいけなくなる。
ひとつの嘘を隠すために更についた嘘で追い詰められて、どんどん苦しくなる…
アドリアンの残酷な嘘のために、優しい嘘をつき続けていく、アンナの気持ちを思うとやりきれない。

アドリアンが嘘をつかなければならなかった(というかつきたかった?)理由も理解できる。
でもね、嘘をつくなら最後までばれないようにするべきだと思うんです。
というか、いつか罪悪感に駆られてばらしてしまうなら初めから嘘なんてつかないで欲しい。
その覚悟がないなら嘘なんてつくべきではない。
じゃないと結局ね、それってね、自分が助かりたいだけなんだもん。
-傷付けないために嘘をついた。それが最善策だと思った。でもそんな嘘をついて相手を騙している自分が許せなくなってきて、苦しくて、もう耐えられない。だからばらそう。本当はね…-
なんてね、自分勝手以外の何でもないから。
ただのエゴだから。
結局余計に相手を傷つける結果になるのわかってるくせに。自分が楽になりたいだけなのに。嘘ってだけで相手を裏切っているのに、更に裏切るなんて。
まあでも結局嘘なんて自分が墓場まで持っていく覚悟がなければ、人伝いに漏れたりすると思うのでね、そういう意味ではアドリアンは素直というか繊細というか、自分から許しを乞う分まだ潔いのかな。
アドリアンのエゴからフランツの両親を守るために優しい嘘をつき続ける、対照的なアンナの覚悟が見ていて苦しい。

アドリアンの嘘を受け入れるのにアンナがどれだけ思い悩んだのかと思うと、見ているこっちが涙が出そうだった。
でも受け入れなければ前には進めない。
許す、許さない、じゃない、受け入れるしかないんだよね…
だから、そんなアンナに別れ際にかけるアドリアンの言葉がわたしは嫌いで、泣きそうになった。
言いたくても言える立場じゃないと思ったから。

ほぼモノクロで進みながらも時々カラーになる映像はアンナの心情を表していると思うのだけど、その映像の使い方のラストが最高によかった。
そして最後のアンナの言葉も。
ああいう時代ということもあるのだろうけど、女は強い。
でも自分がこんな立場になったら、アンナのような女性には絶対になれない。
尊敬します。
わたしは完全に女性側としてアンナの目線で観てしまったけれど、もちろんアドリアンの苦しい思いや愛を感じながら観ている人もいると思うので、あくまで本当に個人的な感想でした🙇🏻‍♀️



ピエールニネとパウラベーアの美しさ、モノクロの雰囲気もあって、重いテーマなのにずっと綺麗なものを観ているような気分だった。
嘘だけでなく、戦争や生死や人間性や愛をも描いている、素晴らしい作品だと思いました。
きのこ

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