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C.R.A.Z.Y.のandesのレビュー・感想・評価

C.R.A.Z.Y.(2005年製作の映画)
3.8
思わぬ拾いものだった、ジャン=マルク・ヴァレの初期作。甘酸っぱい青春ものと高をくくっていたら、真に迫る家族モノであり、アイデンティティの確立の物語でもある。主人公の出自や提示される「信仰」のシンボルなど多分に宗教的な要素もあるはずだが、良い意味で重くならず進む。
主人公は性的マイノリティで、保守的な家族との対立関係が主軸ながら、父親が「良き父」なのがとても良い。思考は古いけど子供を愛しているし、理解しようとする気持ちはある。主人公も行き違いがありながらも、父を尊敬している。だからこそ、「父親」を克服した主人公とのラストシーンには感動するのである。
脚本のF.ブーレイの自伝的要素も含まれているのではないか。そう思えるほど、リアリティがある。登場人物達は皆、功罪両面を併せ持っている。つまり、記号ではなく「生きて」いる。題材ほどセクシャルな印象を受けないのも見事。普遍性を持った人間ドラマである。
音楽の使い方も上手い。時代を映す装置として機能しているだけでなく、シーンの心情や場面転換を表わす効果を上げている(特にピンク・フロイドは効果的)。主人公の「その時」が分かる(80年にもろパンクな風貌は笑ったけど)。あと、やはりブルース・リーはマイノリティのヒーローなんですね。
生きることは「痛い」。しかし、「痛い」ということは生きているということなのだ。ジャン=マルク・ヴァレ、惜しい監督を亡くした。
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