グラッデン

海は燃えている イタリア最南端の小さな島のグラッデンのレビュー・感想・評価

3.8
イタリア最南端の島で暮らす人々の何気ない「日常」と、難民問題に直面する「現実」を並行して映し出したドキュメンタリー作品。

小さな島の出来事から世界の縮図を垣間見た印象を受けました。

本作においてカメラを向けられた少年と周囲の人々、ラジオDJ、潜水士に接点はありません。さらに、島の日常と並行して映される難民救助の現場との接点もラジオのニュースを通じて伝えられる程度で、本作に登場する人々との接点はありません。

かと言って、作中において、海を渡って欧州に来る人々のことを島の人々は語ることはありません。変化を捉える、というよりは日々の営みを淡々と描いております。そうした描き方が、我々がニュース等で目にする難民問題と欧州に暮らす人々の距離間を感じさせます。

では、島民を含め、こうした問題に人々が全くの無関心なのかと言えば、そうではないと思います。奇しくも、カメラを向けられていた少年の直面した事象と言葉を象徴的に扱っておりました。

詳細は本編の内容に触れるので避けますが、見えるようで見えない、何故か息苦しく感じる、彼の身に起こった2つの事象こそ、欧州に暮らす人々はもとより、そして本作の鑑賞者の気持ちを代弁しているように感じました。

ナイジェリアからシリア、そしてイタリアに渡ってきた方が叫んでいた「生命を賭けて生き延びている」という言葉が鑑賞後も何度も蘇ってきます。今世界で起こっていることを、今を生きる我々が理解するためにも、今見るべき映画ではないかと思いました。