アニマル泉

河内カルメンのアニマル泉のレビュー・感想・評価

河内カルメン(1966年製作の映画)
5.0
清順の日活後期の作品群のなかで「殺しの烙印」「悲愁物語」に繋がる重要な作品だ。
「高さ」の主題が頻出する。露子(野川由美子)が佐一(野呂圭介)と源七(杉山元)に拉致される土手、露子と坂田のボン(和田浩治)のキス場面を土手の下から2人が覗いている、そして土手で拉致する。あるいは露子の自宅裏のお不動の階段も異様な存在感だ。階段下には丸い樽風呂があり、雨が降って傘さしながら入浴する。清順の「円」の主題が氾濫する。大阪のクラブ「ダダ」も高低差の世界だ。カウンターはお立ち台になり踊る女たちを下から客が見上げる。露子はさらに肩車される。欲望が渦巻く高低差の世界だ。勘造(佐野浅夫)は肩車した露子に頭上から酒を流され傘で受ける乱痴気騒ぎだ。勘蔵は露子を旅館に連れ込む。狭い和室で鏡が効果的に使われる。姿見がくるくる回転するのが面白い。勘蔵は金が無くなり土砂降りの夜の雨の中で露子を待ち伏せる。勘蔵はずぶ濡れになる男だ。露子のヒモ生活から勘蔵が別れる場面が印象的だ。指輪もどきを水道に流す、やはり水のイメージだ。そして露子と勘蔵はお互いに顔を背けて罵倒しあいながら荷物をまとめて勘蔵が出ていく。清順には珍しい心情的な芝居場になっている。
モデルクラブの社長・洋子の家は二階建ての家の構造がセットばらしの断面で描かれる。美術の木村威夫が才気走る。「悲愁物語」の予告編だ。カメラは各部屋を縦横無尽に移動する。そして真ん中に伸びる階段が存在感を示す。誠ニ(川内民夫)のマンションはアトリエ兼用で透明なアクリル板がある。そこへ清二が液体をぶちまける、現代アートだ。本作は「液体」「水」の主題もあちこちで頻出する。ボンのバラックも川べりにある。
「高さ」と「水」の主題が融合するのが滝だ。お不動の良巌坊(桑山正一)が滝を落下するのは本作の必然の結果である。金融業者の斎藤(嵯峨善兵)も飛行機事故だ。本作の死は墜落や落下の「高さ」で描かれる。
斎藤が露子とボンをブルーフィルムに撮る。「映画内映画」のメタ構造は後期の清順が好む主題だ。
照明は光と影のコントラストが強いノワール調で「殺しの烙印」の照明設計が既に確立されている。
ファーストシーンは河内の村を薔薇を咥えた露子が自転車で颯爽と走る。ラストシーンは東京の街を薔薇を咥えた露子がスクーターで疾走する。河内の場面は神奈川県の秦野で撮影された。
白黒シネスコ
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