ひでぞう

未来よ こんにちはのひでぞうのレビュー・感想・評価

未来よ こんにちは(2016年製作の映画)
4.3
 高校の哲学教師というあり方が好ましい。フランスには教科書の使用義務はない。だから、教師が自ら教材をつくるし、ナタリーのように、教科書をつくることも可能だ。彼女の授業は、ゆっくりと物事の根源的なところを考えさせようとするし、生徒も、それを受けとめて専門的なところを深めようとする。それで、大学にもパスできる。こうしたあり方をみると、哲学というものに対しての価値が、きちんと位置づいているようにみえる。フランスの知的資源に考えさせられる。
 教え子のファビアンが哲学を学び研究する幾人かの有志とともに、山の農場?で生活している。一昔前のコミューンのようだ。こんなことが可能なのだろうか。たくさんの哲学書に囲まれて果てしない会話をくり返す。こうした知的サロンから新しいものが生まれるに違いない。ナタリーが、すぐに帰ってしまうのもよくわかる。もう、自分は若くない。彼らとともに、新たなものをつくりだすことはできない。その絶望が描かれている。
 母親の介護、夫の浮気などなど、日々に追われながら、そして、何よりも、先の「絶望」を秘めながらも、淡々と、しかし、決然と老いに向かおうとする。それが人生だ。邦題「未来よ こんにちは」は、その意味で一理あるだろうが、しかし、心情的には、もう少し、肩の力を抜いて、「日々のうつろい」なんてどうだろう。イザベル・ユペールは、ほんとにいいな。
 アドルノなどフランクフルト学派は、まだしも、スラヴォイ ジジェクが、変わり者、異端?という感じなんだとがわかり、クスッとしてしまう。
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