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未来よ こんにちはのayのレビュー・感想・評価

未来よ こんにちは(2016年製作の映画)
3.5
イザベル・ユペール演じるリセの哲学教師のナタリーは、人生の再スタート地点にいて痛みを引き受けようとしている。
母親の介護、夫婦の危機、子どもたちの自立で、家族は勝手に壊れた。リセの生徒は社会改革を求め、再会した元教え子はアナキスト化。何もかもからひとり取り残されたような感じがして、さめざめと泣いたりメランコリックになったりむなしさをつのらせたりしても、自分の憐れむべき状況は消えず、この先の方向はまったくみえず、決定的な解決はもたらされず、さらさらと時は流れていく。

明確な理由もなく唐突に、重く、理不尽な試練を与えられたように感じて、人生にどうむきあっていいかわからないタイミングで、"加齢"が私の人生を難しくする、といってしまうのはたやすい。哲学の僕であるナタリーは、憎しみを自分にむけたり、心に感じることを否定したり、制約を無闇に乗り越えようとしたりせず、過ぎ去る日々をゆっくりと感知してただ真の心に従おうとする。

人生の厳しいサイクルに圧倒されてしまうのではなくて、そこから目をそらさずに地味に静かに力を得ようとするあり方ってかなり生真面目で、でも激しくクールな生き方のようにも感じられて、ナタリーのような人の人生の物語ももっとみてみたくなった。
時に身を委ねるという行為に力を見出して成熟していく女性にエールを送る、ミア・ハンセン=ラヴの理性的であたたかな目線が好きだった。彼女は優等生なんだろうなあとも思った、もちろんよい意味で。
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