狂王キシリトールヴィヒ2世

メットガラ ドレスをまとった美術館の狂王キシリトールヴィヒ2世のレビュー・感想・評価

4.8
ファッションの持つ歴史性芸術性。高度な服飾技術の上にのせられたイメージと物語のファンタジー。美しい意匠の数々。ジェシカチャステイン、リアーナ、スパイクリー。みんな大好きマックイーン。ファッションという表現の雄弁さと寡黙さ。西洋と東洋の融合とうたってはいてもその中国理解は表面的でともすれば現代に生きるオリエンタリズムの象徴とも目されかねない展示。フィクションの中で描かれる中国のファッションへ与えた影響にフィーチャーするのは現代の中国よりもフィクションとしての中国や過去の中国にこそ価値があるというような主張さえ見えてきそうでそれに対して意見する中国人記者の明の壺なんて今じゃ良いものじゃないという旨の言葉が中国のアイデンティティの複雑さと外からと中からの中国という概念に対する認識の隔たり(あるいは意識的な批判)の大きさを感じる。文化の盗用や芸術の持つ政治性に対して鈍感であるべきではないと思うけどそれらに対する不寛容が生む聖域化こそ危険であるとどうしても思ってしまう部分はある。結局他国への配慮なんてただ単に資本関係がそうさせるだけであってそのことなかれ主義からは経済的な結び付きによっては国家間の表面的対立はなくなりこそすれ国際社会が国内の問題に対してできることもなくなっていってしまうのではないかという危機感を覚える。アナウィンターが常にサングラスをかけて手にスタバを持つことプラダを着た悪魔について語ることH&Mへの対応ジョンガリアーノの建物。ハイブランドと大衆文化を結びつける虚飾はセレブにこそふさわしくこの吐き気を催しそうなほど豪奢な夜会やそのシーズンのランウェイでこそ真価を発揮するのがファッションであるとも言い切れなくてマネキンに着せた歴史としての展示品の美しさは人が着る流行としてのオートクチュールが時代と物の価値を越える証明ではあるけどそれはおそらくメットガラがあればこその存在感。純粋芸術と応用芸術という議論にかびがはえているようにすべては過去のものになるのかもしれない。