TAK44マグナム

ファウンドのTAK44マグナムのレビュー・感想・評価

ファウンド(2012年製作の映画)
4.2
お兄ちゃんはサイコパス!?


殺人鬼の家族をもった少年の日常を描いた青春ホラー映画です。
やたらと色々な賞を獲っているということで、どんなものだろうかと思って手を出したら、とんでもない代物でしたよ、これは(汗)。

登場人物の部屋に飾ってある映画ポスターが思わず欲しくなるものばかり。日本の「WILD ZERO」のが一際目立っておりました。
他にも、「The Taint」や「デッドリースポーン」とか、格好良いポスターばかりで羨ましいお部屋(苦笑)。
それと、タイトルデザインがアメコミ風でメチャ好み。


ホラー映画好きで、ホラー風味のヒーローコミックを描いたりしている少年マーティ。
パパはエロ本を隠し持っていて、ママは元カレからのラブレターを未だ大事にとってあり、そしてお兄ちゃんのスティーブはボーリングバッグの中に「生首」を詰め込んであるのです。
そう、お兄ちゃんの正体は殺人鬼!
それを知りながらも、マーティは「次はどんな生首が入っているんだろうな~」と、バレないように注意しながら密かに盗み見したりしている毎日。バレたら殺されちゃうのかな・・・と、心配しつつも止められないのでした。
そんなある日、友達にホモ野郎などと罵倒されたマーティは、ビビらせてやるぜと、お兄ちゃんの大事な「生首」を見せちゃいます。
すると、バッグに入っていたのは見知った「生首」でした。
驚いたマーティは、思わずバッグを元の場所に戻さずじまい。
案の定、怪しんだスティーブに知られてしまいます。
しかし、ここから事態は、更に収拾のつかないカオスと化してゆくのでした・・・!


これは、「ホラーが好きだけど、だからいってサイコパスなんかにはならないぞ」と、懸命に抵抗する少年のお話です。
子供ならではの好奇心から刺激的なホラーを好んでいるだけであって、いたって普通の子なのです。
ホラー映画ばかり観ていたらキチガイになるに違いないと決めつける大人の論理は、自分たちが理解できない犯罪者が現れた場合に、理解しやすいようにネタとしてホラーやエロを槍玉にあげるのであって、それらを全て有害指定して世界から排除すれば猟奇殺人や性犯罪が無くなるのかといったらそんな事があるはずがないのです。
確かに多感な時期にホラーばかりに溺れていたら多少の影響はあるでしょうけれど、そんなことを言ったらコンプライアンスが緩かった時代はテレビでも普通に残虐なホラー映画を流していましたからね。
だからといって、それを観て育った世代をキチガイ世代とは呼ばないでしょう。
なので、マーティはモノローグで語っているとおり、「僕も殺人鬼になっちゃうのかな?いやいや、ならないよ。僕は優秀だし、映画と現実は違うしね」と、ちゃんと理解しているんですね。
しかし、現実をホラー映画が侵食し、ホラー映画ばかり観ていたお兄ちゃんが実際に殺人鬼になってしまいます(汗)。
これはどういう事なのかなと思いつつ鑑賞したのですが、勝手に想像するに、監督の心境そのものなんじゃないかな・・・と。
たぶん、こんなの撮るぐらいなので相当なホラー好きなのは想像にかたくないじゃないですか。
幼い頃からホラーばかり観ていて、ちょっと自分が心配になっちゃう時もあったりして、それでも「おいおい、俺は普通だよ。ただ少しばかりホラーが好きすぎるだけさ」などと肯定してみるも「でも、たまに生首にアレを突っ込んでみたいと夢想するんだよなあ・・・大丈夫か、俺?」と不安にかられる夜もあって、そのリビドーを映画製作で解消しているのかもしれません・・・な~んて(苦笑)。
だから、マーティもスティーブも、どちらも監督(もしくは脚本家)が自身を投影したキャラクターなのではないでしょうか。
いや、あくまでも想像ですけれどね。
何にせよ、スコット・シャーマーという監督さんのタダモノじゃない感が伝わってくる出来映え。

本作はホラーとしての外面は地味です。
内面はドロドロのホラーですが、所謂スプラッターなビジュアルで脅かすタイプの映画ではありません。
そんな本作において、唯一、びっくりするほど突き抜けたスプラッターな部分が、劇中映画である「HEADLESS」をマーティがビデオ鑑賞する場面です。
この「HEADLESS」なるオリジナルの映像作品がメチャクチャなゴア描写満載でして、短い時間ながらも「女子の首を切り落として、その生首をオナホールにする」など、倫理観完全無視が素晴らしすぎる代物なんですね。
これはマジでド変態すぎて、さすがに若干引きましたよ(汗)。
しかしながら、やはりスプラッターホラーとして惹かれるものもありまして、その吸引力といったらありゃしないのです。
どうやら、現在、長編映画化すべく鋭意製作中とのことで、このノリのまんま作っちゃったら日本ではソフトスルーでも難しいんじゃないかと思いつつ、完成したら是非観てみたいと願ってやみません。
でも、そうして鑑賞できたところで、「うおー、俺もやってみたい!」と女子を捕まえてきてバラバラにしようなんて怖くて出来ませんけどね。
真性のキチガイは、逆に作り物のホラー映画なんて馬鹿らしくて観ないんじゃないかな(苦笑)。

で、話を戻すと、あまりにも地味すぎてクライマックスにおいてさえ血しぶきも飛ばないし、チェーンソーのエンジン音が唸るわけでもない。
それどころか、肝心の場面は全く見せずに、被害者の声だけが聞こえてくるのです。
「やめろー!」とか「いま、助けるぞ」とか。
それでもってやがて何も聞こえなくなり、暗闇からヌッと、ガスマスクにフルチン姿のスティーブが血だらけで現れるのです。
ポスター画のようなマッチョではありませんが、股間のぼかしの向こうにはギンギンに勃起したアレが映っているに違いありません。

こ、怖い・・・・・!!

これぞホラーですよ!
ものすごいショックじゃないですか。
何も見せないことで逆に想像させるのです。
いったい、あの向こうで何が行われたのかを。
実際には、約100万円の製作費らしいので、もっと予算があれば残酷シーンも撮れたのかもしれませんが、これはこれで正解だったんじゃないかなと、強く思います。
淡々とした作風ながらも、真ん中にガツンと「HEADLESS」の強烈な映像を仕込むことによって退屈さを軽減し、さらに「HEADLESS」の映像自体がクライマックスの「見せていない部分」を補填する役目をおっていると考えられないでしょうか。
おそらく、「HEADLESS」のドクロマスクと同様の残虐行為が行われたのでしょう。
観ている側は、声だけが響く映像に、いつしか鬼畜な想像を重ねるようにコントロールされるのです。
そして、だからこそ、眩いばかりの狂気を放つラストカットが心に刻まれる衝撃。
ヘヴィ級のパンチを喰らって、一発でダウンさせられた感じでしたね。
まさしく、過程を隠すことによって結果を際立たせています。
地獄の芸術の如きラストカットは、今後トラウマになってもおかしくないレベルでした。
マーティの、精一杯のモノローグが空しかった。


子を持つ親ならば恐ろしさが倍増するかもしれない傑作。
家族のクローゼットに何が置いてあるのか、知っておいた方が良いかもしれませんよ。
いや、知らないでいる方が・・・・・・・?


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