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エルヴィス、我が心の歌のskm818のネタバレレビュー・内容・結末

エルヴィス、我が心の歌(2012年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

自分をエルヴィス・プレスリーになぞらえている男の話。彼は昼間は家電の修理工場で働き、夜はエルヴィスのそっくりさんとしてクラブで歌っている。エルヴィスになぞらえると言ってもイッちゃっているわけではなく、本名が必要なところではちゃんと本名を名乗る常識的なフツーの人だ。そのクラブの出演者は往年のスターのそっくりさんばかりのようで、ジョン・レノンやキッスのそっくりさんも見かけたが、こういうの需要あるんやな。彼は密かに温めていた夢を実現するために工場の仕事を辞めるが、その矢先、別れた妻と娘が交通事故に。妻が退院できるまで、彼は娘をひきとって一緒に暮らす。ここに一瞬の躊躇もないのがいい。予定が狂ったと言ってこどもに八つ当たりすることもなく、淡々と食事をさせて、夜は自分の仕事場に連れて行く。妻の入院費が必要なので、一度辞めた工場に復職して働く。娘にためにちょっとずつ貯金もしているようだ。とても真面目な人に見える。酒に溺れることもない。妻とは親権でちょっともめているが、憎み合ってるわけではなく、娘も数日一緒に暮らすと懐いてくれる。老いた母に対しても家政婦を雇ってきちんと面倒をみてもらっている。
裕福ではないが、こういう暮らしをしている人はたくさんいるだろうし、もっとひどい状況の人だっていくらでもいる。一旦やめた工場に戻れるのだから評判は悪くはなかったのだろうし、クラブの出演料は滞りがちとはいえ、エルヴィスのそっくりさんとして常連さんにはそこそこの人気はあったと思う。でも彼は妻が退院してひとりに戻ると、中断したところから再開するんだよな。これからは音楽一本で身を立てるということかなと思ったが、違うようだ。飛行機のチケットを買ってメンフィスに向かい、エルヴィスの邸宅見学ツアーに参加する。エルヴィス詣でをするのが夢か?と思ったんだが… 多分もう彼の中ではそうすることは既定路線だったんだろうなあ。残念でならない。そしておそらく彼のような行動をとるこういう人は、彼が思っているよりも大勢いるのだろうなと思うと、さらに悲しくなってくる。
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